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目を丸くするのは、永久や望だけでない。クラス中が驚いたように全を振り返り、工藤も閉じていた瞼を持ち上げて珍しそうに見つめた。元気よく返事をした全は立ち上がり、笑顔でいう。
「模擬店、やってみたいですっ」
『『っ、な、なんか可愛い…!』』
「模擬店…っと、他にありますか?」
『お、俺!音無がやりてぇなら模擬店でいいと思うぜっ』
『僕も。あんなイキイキしてるの見たら、ねぇ…』
チラ、とみんながまた全を振り返る。ニコニコ笑顔で席に座り、永久や望に頭を撫でられている全。この2ヶ月、こんな姿は見たことがなかった。今まで無関心だった全が、『やりたい』といったのだ。ぜひ、それを叶えてあげたいという気持ちになぜかなる。
「えへへ、模擬店するの」
「まだするとは決まってないでしょ、全」
「…ふぇ、しない、の…?」
「あー永久泣かしたー」
「っ…ちょ、全…っ」
うる、と潤む瞳に焦る永久。いつも望に返すように返してしまったが運の尽き。やりたいな…と寂しげに呟く全に、永久は困ったようにクラスを見回した。すると、1人の生徒がまた『模擬店賛成』と手をあげる。
…と。
『俺も!』
『僕もいいよ』
『仕方ないな、望くんのためなんだからっ』
「ぅ…?」
「じゃあ、模擬店に決定ということでいいですか?」
『『いーでーす』』
はい、いいお返事です。みんなが模擬店に賛成してくれ、全は嬉しそうにはにかんだ。永久にいわれて『ありがとう』とクラスにお礼をいえば、何人かは顔を赤くして前屈みになった。
さて、模擬店はやると決まっても、何を売るかはまだ決まっていない。朋壱が何がいいですかと問いかければ、あちこちから色々な意見が飛びかかった。
「…売るもんは他と被った場合別のにしなきゃいけねぇから、第三候補まで決めとけよー」
「だ、そうです。それもふまえて多数決をとりたいと…」
思います、という前にクラスを見回していた朋壱は、全のところで動きと喋りを止めた。キラキラした目で黒板を見ている。思わず、「何か気になるのでもありました?」と声をかけてみれば、全はあるものを指差した。
「たこやき、なぁに?」
「え、知らない…?」
「たこさん、うにょうにょしたやつ?そのまま焼くの?」
「違うよ全。なんていうのかな…丸い生地の中に切ったタコが入ってるんだよ」
「すごーいっ、面白そうだねっ」
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