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 …全は、いつの間にか寝てしまっていた。いつ寝たのかは夏樹にも分からない。作業に集中していて、ほんとに全のことは頭から抜け落ちていたのだ。お昼のチャイムが鳴ってあと少しだけ、と作業をして立ち上がれば、真ん中あたりで丸まっている全が目に入ったのだ。



「…やっぱり猫みたい…」



 スヤスヤと気持ちよさそうにお昼寝をする全。小さく体を丸める姿に、ここまで小さくならなくても…と思う反面、そんなところが可愛らしいと思えてしまう。夏樹は少しそんな全を観察してから、優しく揺すり起こした。



「全くん、…全くん、お昼の時間だよ」

「んぅ…、…ふぁ…っ」

「そろそろ戻った方がいいんじゃないかな」

「…お、ひぅ…?」

「そう、お昼」



 頷いて、おはよう、とニッコリ微笑む夏樹を見て、全も心なしか表情を緩め、起き上がった。体や服についた汚れをパッパッと払い落とし、空を見上げて眩しそうに太陽を見つめる。確かに、太陽はてっぺんまできていてサンサンと地上を照らしていた。



「…お昼」

「僕もお昼にするから、帰るけど…」

「ん、さよなら」

「…ぁ、うん、さよなら」

(あれ、意外とあっさり…)



 たとえば、一緒に、だとかもう少しだけ、だとか。いつも周りを観察していた夏樹はそうくるかと思っていた。けれどあっさり帰っていく全に驚きつつ、こういうものなのかと1人納得する。またきてくれるのかな、なんて次回へ期待を寄せながら、夏樹も自分の寮へ帰っていった。



――ガチャッ

「っ…お帰り全っ」

「ただ、いま」

「もうどこいってたの?」

「……ワンワン」

「犬?」

「ワンワン」



 また、全の口から出てきた『ワンワン』。一体どこにいるというのか、世の中の理を考えればHに関わっていることになるが、全はいつも無事帰ってくるし…。永久は、首を傾げ頭をひねらせた。少しは喋るようになったとはいえ、まだ要点をはっきりといえるほどではないのだ。何もいってくれなかった頃よりも悩む回数が増えてきている。


(…やっぱりケータイって必要かも…)


 もし、全が持っていれば。今日のように帰ってくるまで待つことはしなくていいかもしれない。いないと気づいたときに電話で聞き出すことも出来るし、写メのやり方を教えて写真で居場所や一緒にいる人を特定することも可能だ。

 何より、持っているというだけでなんだか安心感が生まれる。


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