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「Gの生徒が自由に出入りするのはあまりよくないんですが…君にはいってもムダそうですね、全」

「……」

「ああ勝手に下の名前で呼ばせてもらいますね。ふふ、こちらに勝手にきているのだから、それくらい構わないでしょう?」



 ねぇ、全…と。とはいえ全にとってそんなものどうでもいいし、翼も本音をいえば普通に呼びたかったのだろう。あの日から気にはなっていた、この子のことを。文句をいわない全に満足したのか、翼は思い出したようにこういった。



「今日は松崎…そのワンワンという人はいませんよ。先ほどまで上にいましたが、今日はまったくといっていいほどHの生徒はここにきていませんし」

「…いない、」

「ええ、ですからまた明日きてみて下さい。明日なら、いますから…というかいさせますから」

「明日」



 コク、と小さく頷きながらそう繰り返した全の頭を、翼は撫でた。サラサラで傷んだ様子のない綺麗な髪に、翼は感嘆のため息を漏らす。そして、ふと視線をズラして全の手の中にあるものに興味が移った。



「おや、それはケータイですね?全のですか?」

「…ケータイ」

「ええ、全のでしたら、ぜひ連絡先を交換してくれませんか?」

「ケータイ…永久」

「…永久?永遠、の?それとも…トワという人のものなんですか?」



 言葉の足りない全に、翼が頭をひねりながら聞いてみる。すると全は小さくだが頷き、もう一度『永久』と口にした。それを聞いて翼は残念そうに返事を返す。せっかくアドレスを交換して、これからもっと仲良くなれるかもと思ったのに。



「ご自分のは持ってないんですか、このご時世に」

「…さあ」

「…持ってないんですね。はぁ、なら仕方ありませんか。また持つようなことがあれば私にも教えて下さいね」

「はい」

「ふふっ」

(…って、私はなぜこんな子のアドレスなんかを…)



 ハ、と翼は気がついた。いつもならこんなことはないのに、なぜか全に対してはそう心から思ってしまって。そして今なら何でも出来る、そんな気分になったのだ。髪を撫でたあたりから無性に気持ちが高潮して、何でも出来るような気に。

 翼は冷静になって頭を振り、そして聞こえてきた足音に顔を引き締めた。



『あーめんどく、…っ、リーダー!?』

「なんですか騒々しい。もっと落ち着いて行動しなさい。Hの人間ならば」

『すいませ…って、そいつは…?』

「なんでもありません。用があってきたのなら早く済ませてしまいなさい。…君も、さっさと安全なところにでも帰りなさい」

「……」


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