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――コポコポコポ…


 水の注がれる、優しい音。その音にピクリと体が反応し、ついで香るいい香りに、全は閉じていた瞳をゆっくりと開けた。肌に擦れる草がくすぐったい。まるで起きて、といっているように全の肌をくすぐる。相変わらず心地のいい気温と、その匂い。



「んぅ…」



 全は、ゆっくりと体を起こしてあたりを見回した。まだどこか眠そうな表情。スンスン、と鼻を鳴らし、ある一点で動きを止めた。人が、いる。まだ眠気で霞む視界の中、その人は椅子に座り、全を呼んだ。



「ハーブティー。いれたから、よければ飲む?」

「……の、む…」



 とても落ち着いた声。全はパチパチと目を覚まそうと瞬きを繰り返し、ゆっくり起き上がって覚束ない足取りで、もう一つの椅子に座った。ハーブティーのいい香りが鼻をくすぐり、全はポヤ、とそれを見つめる。

 目の前の人がカップを持って飲んだのを見て、全も真似をした。同じようにフーフーと冷まし、コクリと飲み込む。ハーブの香りがふわっと鼻を抜け、少しだけ全は目が覚めた。けれどまだ寝ぼけてポヤポヤしているせいか、言葉もなければ動きもない。目の前の人は、少しだけ覗き込むように全を見た。


(無表情…ってわけではないか)


 けれど表情からも、このハーブティーを飲んだ感想は窺えられない。…でも、全をまとう空気が優しいものに包まれているようで、彼はホッと息を吐いた。お手製のハーブティーを気に入ってもらえて、安心したのだろう。

 静かな時間が続く。彼がきて30分。そしてそこから全が起きて10分ほど。もう少しで5時間目も終わる、というところで、ようやく全はパッチリと目を覚ました。周りの花を見つめ、小さく口を開く。



「花…」

「……何」



 少しだけ、冷たい声が出た。草花は彼にとって、人生の生きがいであり、人生そのものだから。けれど…。



「花、キラキラ」

「え…」

「ふわふわ。…綺麗」

「っ…あ、ありがとう…」



 その表情はやはり無表情に近いけれど。なぜか嘘をいっているようには聞こえなく、彼は嬉しそうに小さく微笑んだ。ここの管理は総てこの生徒がしている。植え、育て、選別し、枯れてゆくまで看取る総てを。だからこそこうして誉められるのは、純粋に嬉しい。



(綺麗?)
(キラキラだって)
(嬉しいわ)
(嬉しいな)
((なんて心の綺麗な子でしょう))

(…みんなもこの子を受け入れてる…)


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あきゅろす。
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