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ドドン!と目の前に差し出されたのは、指揮者の持つ真っ白な棒、タクトだ。紅葉は息を整えながらそれを受け取り、手のひらの上にそっと乗せてみた。
まだ新品で、艶がある。
「それを使って思う存分振るといい。なっ」
「っ…(コクッ!)」
「…まぁ、それが渡したかっただけなんだ。じゃあ教室に…」
『……あ、黒澤先生ちょっとすいませーん』
「お、どうされました?…っと、椎名、ちょっと待っててくれるか?」
「ぁ…っ、…」
行っちゃった…。こちらの返事も聞かず、他の先生のもとへ行ってしまった先生に困った表情を浮かべ、紅葉はしばらくその場で待つことにした。…が、どうにも戻ってきそうもない先生に痺れを切らしてしまい、机の上にメモを残し、紅葉は先に教室へ戻ることにした。
準備時間ということもあり、廊下にはチラホラ人がいる。10月も半ばになればカーディガンの上にブレザーを羽織る人も出てきて、紅葉も茶色のカーディガンからちょこんと出た手をすり合わせた。
(……あ、)
そのときに見えた何かに、足を止めてタクトをよく見てみる。すると、手で持つ部分に何か文字が入れられているではないか。
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