5
ふぇ、と紅葉の顔が歪む。桐が急かすものだから携帯を置いてきてしまったのだ。今にも泣きそうな紅葉を見て桐はうっと息をつまらし、自分の携帯を投げるように渡した。
紅葉は痛い、と悪態をつきながらも、それを使ってどこかに出掛けるのかと質問した。
「じゃなきゃ荷物なんて詰めねーだろ、バカか」
「(む…っ)」
【バカやない!1人でやればいいじゃんっ】
「あ?暇人が何いってやがる」
「っ…、…」
「な、んだよ…」
【…僕、は…寮に帰る、の?】
寂しいよ、という思いを込めて桐を見つめる紅葉。少し尖った口は拗ねているのか、桐はそれを見て面を食らった。桐の中では紅葉もいくことが決定事項だったのだ。そんな顔をされるなんて、思ってもみなかったのだろう。
「……んなに、1人は嫌かよ」
「…(コク)…」
「ったく…ガキだな。しょうがねぇからテメェも一緒に連れてってやるよ、…海」
「…?(う、み…?)」
「海だ。嫌とはいわせねぇ」
上から目線な桐だが、その意味をようやく理解した紅葉は、パァッと花のような笑顔を咲かせた。
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