大事なケータイ
困ったように首を弱々しく振りながら、紅葉は携帯を握り締めた。それがミカ様の目に留まってしまった。1人の男にその携帯を奪うよう指示を出したのだ。
『話す手段も、助けを呼ぶ手段ももうないね?』
「っ…ぁ、(やだぁっ!)」
『へへ、悪いなー紅葉チャン?』
『それ貸してよ……ふふ、いいことしてあげる。よーく見てな』
「ぁ、ぁ…っ!」
簡単に奪われてしまった携帯。取り返そうと伸ばした紅葉の手は知らない男によって拘束され、言い様だとミカ様は鼻で笑い、ひも付きのそれをぶらんとぶら下げた。
コミュニケーションツールとして活躍してきた携帯。だがそれ以前に、あの携帯は、中には…紅葉と若葉の、たくさんの写真が保存されているのだ。若葉が買ってくれた携帯という、大事な宝物なのだ…。
『何、返してほしいの?』
「(コクコクッ)」
『じゃあ、長谷川様にもう近づかないで』
「っ…」
『……ふん、こんなもの』
紅葉が言葉を詰まらせると、ミカ様の手からスルリ…と携帯が落ちた。鈍い音をたてて地面に落ちるソレ。
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