17 会長の一言でお願いされた仕事を始める。噂通り厳しい人だ、空気がピリピリしてるのが分かる。 ああ、これに似た空気をオレは知っている。あの人のもとへ帰ると、いつもこれだから。 重たくて、 息のしづらい嫌な空気。 ──カタカタカタ、 ジャックはこれに慣れてそう。オレだってまぁ、慣れたくないけど慣れてる。 けど…シロは。 シロは居心地が悪そうかも。 パソコンに打ち込む音と紙をめくる音、それにときどき会長のため息。 それしか音がないそこは、オレは地獄だと思う。 幸い使ってるパソコンがノートだったから、それを持ってシロの横に座った。 ………ああ、オレらしくない。 「なっ…何スか…」 「……別に」 「………はっ、まさか自分を狙って…!?」 「ありえないし…アンタばか?」 「キーッうるさいッス!怜治さんが天才なんスよっ」 なぜそこでレイジが出てくる…っていうか声が大きい。 あの会長に睨まれたじゃんか。 「目はちゃんと資料に向けなよ」 「っ…いわれなくてもやるッス」 「………」 「……な、何で黙るッスか…」 「へっ?……あ、えー…その髪なんとかしたら?」 「いーんス、怜治さんさえ綺麗なら自分はどうでもいいんスッ」 なぜか誇らしげにいうシロに、そういうもんなのかと妙に納得してしまった。 きっとコイツは、自ら引き立て役になろうとしてるんだ。 それを至福だと思ってる。 いいなぁそういう考え。 オレは、捨てられないようにと毎日不安でいっぱいなのに。 「黒蝶こそ正体隠し続けてれば良かったじゃないッスか」 「……何で?」 「ジャックみたいなバカに見つかって、こんな目に合わなかったッス」 「うわーひでぇ。俺ら総長のためにずーっと探してたの知ってるくせにさ」 「んなこと知らないッス」 ……確かに、T-cardsにバレてつきまとわれるのは正直ウザイ。でも辰巳の横では、"オレ" でありたいんだ。 きっと、辰巳と出会ったときから、高見澤瑛太は黒蝶が本当の姿になったんだ。 髪をおろしたアレは、偽りのオレ。 ああもう、早く辰巳、こないかな…っ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |