たまにはこういう日もいいかもしれない / 土方





「土方さーん!」

「おう、稀有。どうした。」

「見回りの時間です!」

「……いやいや、今日お前は総悟とだろ。」

「代わってもらっちゃいました。てへっ☆」

「てへっじゃねーよ!なに人の断りなく
チェンジしてんだテメー!!」

「ほらほら、文句いわないで。
レッツゴー!!」

「ちょっ、待っ…〜〜っ、残業
増やしてやるかんなコノヤロー!!」




そんなこんなで今に至る。
折角人が貴重で尚且つ短い休憩時間に
煙草を吸っていたというのに。
突如やってきた嵐の様な迷惑女は、
人に二日連続で見回りをさせているくせに、
嬉しそうに並んで歩いてる。

「……なぁ、番井さんよぉ。」

「やめて下さい、苗字呼びなんてよそよそしい。
何時も通り、稀有って呼んで下さい!」

「……稀有。」

「はい!」

名前で呼べば犬っころみたいに笑う。
それすらにときめく俺も、大分末期だな。

「何でわざわざ、総悟の野郎に
見回り代わってもらったんだよ。」

「あ、やっぱり嫌でした?」

「正直、面倒臭ぇし怠ぃしでスゲー嫌。」

「じゃあ、二度とこういうことしませんから、」

今日だけは勘弁してください、と
申し訳なさそうに笑う稀有の笑顔が
どうしても胸に突っ掛かって。
突っ掛かって突っ掛かって
しょうがなかった、の、で。

「…………ちょっとお前、こいや。」

「え、………えっ!?」

手を掴んで、ずかずかと裏通りに入り込む。
薄暗く狭い道を右へ左へと曲がり進むと、
一角の突き当たりに辿り着いた。
状況が飲み込めず戸惑っている
稀有の背中に壁を押し付け、
顔の横に左手をつける。
これで壁と俺に挟まれた状況だから、
体格的にも力的にも逃げられやしない。

「ふ、くちょ…、何……っ!」

「十四郎。」

「…え、」

「誰も見ちゃいねーよ。
だから、名前で呼べ。」

「とう、し…ろう……、」

付き合い始めて、早一年。
隊士公認だが、仕事とプライベートを
はっきりする為だとかいって、
こいつは二人きりの時しか名前で呼ばない。
それがもどかしくて、そのくせ、
とてつもなく愛おしいのも事実で。

「……何かあったのか。」

「…なんで?」

「言え。」

「っ……!」

俺が問うと、稀有は俯いて黙り込んでしまった。
こういうときは、たいてい何かあった時だ。
しかも、俺が原因で仕事絡みか
女絡みと決まってる。

「…また、何かしちまったか?俺。」

「ち、違う!十四郎は何もしてない!!」

「っじゃあ、何で……!」

今度は俺が俯く番だ。
原因がなんであれ、好きな奴の異変に
気付いてやれないなんて。
何のための彼氏かわかりゃしねぇ。

「…怒らないで、聞いてくれる?」

「……嗚呼。」

「あのね、……淋しかったの。」

予想外の展開。
予想外の解答。
思わず、俯いていた顔を持ち上げた。

「最近、十四郎は遠征とか出張ばかりだし、
夜会いに行こうと思っても、残業してるか
疲れた感じで刀の手入れしてるし……っ」

だから、会いたくて。
そこで言葉は途切れた。
身を縮めて肩を震わせて、
黒水晶の様な瞳から涙がひとつ。
またひとつ。
稀有の頬を伝って、土に吸い込まれていく。
自分をそんなに思っていてくれたこいつが、
可愛くて、愛おしくて。
思わず、ギュッと抱きしめた。

「……悪ぃ。」

「っひ……く、と…しろっ、
隊服、濡れちゃ……、ぅっ………!」

「構わねぇよ。」

人の服なんぞ心配して、
胸板を押して離れようとする稀有を、
逃がさないように、離さないようにと
腕に力を込める。
視線が合わさると、視界を閉ざし、
どちらともなく唇を重ねた。
薄らと目を開けると、稀有の閉じた瞳から、
未だに涙が伝い落ちる。
片方の手を腰に、もう片方で涙を拭ってやる。
長い長い口付けの後、もう一度視線が重なると、
恥ずかしそうに、でも嬉しそうに稀有は笑った。






たまにはこういう日もいいかもしれない
(帰ってから、めいいっぱい甘やかしてやるか。)


<後書き>
それから、思い切り愛を伝えよう。






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