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panic game!
2(side 畠)
放課後の職員室に顔を覗かせたのは、寮を管理する寮父・寺田さん(60歳くらいのじいさんでいつもニコニコしてる当たりのいい人)だった。
少し困ったように眉を八の字にしながら持ってきたその手紙は、少し大きめの封筒だった。



「これ、一年生の曇くん宛なんですがね、」
「なにか問題が?」


俺の隣や前に座る先生たちは変わらず自分の仕事をしていたが、意識は完全にこっちに向けているのが分かる。
それもそのはず。
普通、生徒宛の手紙は寮父か寮長の春村が管理する。わざわざ学校に持って来ることはない。


「差出人、あの『藤縞』様なんです。」


なるほど、確かにそう言って見せられた手紙には達筆すぎるくらいの綺麗な字で『藤縞 健史』と書かれていた。
世に知られた名前だ。



「曇くんは確か普通の家庭の子ですよね?たしかに藤縞様のご子息、恂ノ介くんと仲は良いみたいですが…」
「寺田さん、なにか危惧されているんですか?」
「一般家庭と上流家庭じゃまず接点なんてないですからねぇ。」


俺と寺田さんとの会話に割って入ってきたのは体育を専門としている富長先生だった。


「…富長先生?」
「曇くん、藤縞さんと仲良くしてお金でも当てにしてるんじゃないんですかねぇ。あの二人、同じ中学校だったんでしょう?ここに入れたのも案外藤縞さんとこの援助があったかもしれませんよ?」
「担任である俺以外が曇を貶すのは許せませんね。俺の生徒をあれこれ言うのはやめて頂きたい。」


これでアンタとの会話は終わりだというように寺田さんに向き直る。富長先生が苦い顔をしたように見えたがそんな事に興味などない。
寺田さんにもそれが伝わったのか、富長先生を気にする様子も見せず話を続けた。



「実は、入寮前の説明会で保護者の方が来ていたときに藤縞様から言われたことがありまして…『曇くんとは必ず部屋を離すように』、と。とても穏やかに話していましたが凄みがありました。それが気になっていたんですが…。もし手紙の内容が曇くんに対して良くないもの…敵意のある内容だとしたら、普通の子である曇くんには辛いかと…。」
「本当、寺田さんは子ども想いですね。見習いたいものです。」


微笑みながら手紙を受け取る。


「これは私から渡しましょう。ついでに進路相談でもしてやりますかね。あの成績でどう生きていくつもりなのか…頭が痛いです。」
「ふふ、お願いします。」



安心したように胸を撫で下ろして職員室を出ていく寺田さんを見送った。


「…普通の子、ねぇ。」


本当に普通なら、有名な家柄のところと関わったりはしないと思うのだが。
そこまで考えたところで所詮は俺の持論だと思い、気にしない事にした。



***
それが昨日の出来事である。

今、実際に手紙を手に取った曇の表情はちょっと驚きを見せたくらいでほとんど普段と変わらなかった。

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あきゅろす。
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