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―??? side―


俺の叔父さんが経営している学校が大変な事になっているらしい。

なんだか美形たちは遠巻きにされて友達も出来ない状況で孤立、何人かは自殺を図ったりしているって聞いた。
そういうのって遠回しなイジメって言わないか!?絶対ダメだろ!!

親戚の人達が言うには、だから俺みたいな明るくて素直な奴がそいつらと友達になってくれたら…って話だった。

それなら任せてほしい!勉強は正直そんなに出来ない変わりに、友達ならいくらでも作れる自信があった。
俺はあるチームの総長をやってたりするんだけど、そいつらは全員俺の友達になりたいと言って来てくれた奴ばかりだし、俺も積極的に話すのは大好きだ!

なんかスキンシップが激しい奴が多いけどそれも友情の証だよな!

そう思って二つ返事したら父さんに猛反対されて…でも、ひとりぼっちの奴を放ってなんておけないよな!?

俺はなったことないから分からないけど…それは絶対に苦しいんだろうと思う。





だから反対を振り切って、俺は今菊郷学園の門の前にいる。

肩からかけた荷物の紐をギュッと握って、足を一歩進める。


新しい友達との楽しい日々の始まりだ!


そう思いながら、案内という人の方へ勢いよく走り出した!
















―奏 side―



麗らかな日差しの日曜日、そんなキラキラ笑顔の少年を双眼鏡で見届ける二つの影が職員棟の屋上にあった。


「転入生はん、またの名を自分の幸せを疑う事もしないお子はんが腹黒副会長へとダッシュしてはりますなぁ」
「俺も見とんのやから実況はいらん」


…そう、それは温厚会のメンバー2人。
明日から登校するために休日の今日やって来た転入生を観察しようという活動目的で狐姿で屋上にビニールシート敷いて寝転がっているわけだ。

…異様だ。異様すぎる。


「目標は副会長にダイビング…あー、アホやアイツ、眼鏡ずれとるやんな?」
「へぇ、ついでに鬘もずれとりますなぁ…おぼこいというか…トロいどすな」


普通に関西弁で会話できる俺も異様だ…
まぁテレビみたり親戚の関西弁だったりで多少変かもしれないが、元の俺の面影さえ分からなくできればいいのだ。


「あ、副会長がさりげに直しよった」
「美形独り占め作戦やろか〜?うちやったらあんなんタダでも御免やわぁ」

優雅な口調でクスクスと笑っても、言葉とやってる事は暴言と覗き。
折角の日曜日なのに…と休日を潰した原因である転入生に敵意の目をむけそうになるがすぐに抑えた。

族関係なら敵意とかには敏感かもしれないからな…と思い転入生を確認するが気付いた様子もない。


「…アレほんま総長?メチャ鈍やんか」
「お友達に大事に大事にされはってた雛人形のお首さまてきいてますえ?」
「…俺より弱いんちゃうか?」
「うちのほうがほんのり上手…くらいやと思わはりません?」


そう言われて紺と転入生を見比べた。

俺は運動…というか武術の心得がある。歴史好きが高じて剣術や柔術とかに興味を持って、指導してくれたのは俺と同じく過去歴史好きが高じ武術を嗜んだ高齢の人だ。
その人曰わく筋はいいだとか。
だが、それより見る目は鋭い勘もあってか今の時点でもかなり高いらしい。


「…鋭さと俊敏さで転入生、柔軟さと技術でシロ。俺と何回か武道場で手合わせして改善したんと、冷静さや判断力含めてシロ有利…やな」
「あぁ、クロはんに言われるとなんや嬉しうてかなわんわぁ」


どうやら紺も信用してくれているらしい。

…おカマなんぞ本来敵じゃないが、よほどでない限り目立ちたくないし…弱いものイジメになりかねない。
流石にそれは俺のやり方じゃないだろ。

そんな話を先達にすれば、お前なら大丈夫だから好きに使えと言われた。



ついでに紺もそこそこ強い。
芸道が趣味と言っていたが、芸道の中には武道も入るとは意外だった。

やり返さないのか?と聞いたら「自分が磨いてきた道が汚れる」だとさ。


「ぼちぼち『平凡』の称号偽りありになってきてへん?」


「いややわぁ…うちら秘密もトラウマもないし族も情報屋もしてへん、『習い事』に気ぃ張ってるだけの『平凡』どす」


「そう言われれば、そうだな」


確かにその通り。親に言われて塾や空手に通う子供と同じ『習い事』だ。
紺に言われるとストンと納得してしまうから不思議だ。


「さぁて、すっきりしたトコで転入生へとご注目おたのもうします〜」
「へえへ…………………ゲロっ」


逸れていた思考を双眼鏡に戻し…その事を後悔して相手を蹴った。





…何が悲しくて腹黒と転入生のキスシーン眺めにゃならんのだ…!!


「いとぉおす……まぁ、今ので副会長はんは落ちはりましたなぁ…」
「はぁ、せやな…突き飛ばして逃走するんはええけどどこ行く気やアイツ」

ダッシュして向かうのは…グラウンドか?
「もしかして、道聞く気ィかアレ」
「そう、らしいなぁ…休日に集中して練習してはるとこに行くて…」

大声を出して練習を中断させてしまったのに申し訳なさそうにするでもなくニコニコ…カツラだから口元しか見えはしないが…して道を聞く相手に対応したファーストの選手は、明らかに引きつった笑いだ。

「………空気読めやアイツ…」
「怒ってはる!めっさ怒ってはるんに気ぃつこやぁ転入生はん!」

その後また大声でサンキューとか言って…怒りと呆れの空気も読まずに去っていった転入生に、あんなド級のKYに近付くくらいなら悪役と思われた方がましだ…という明確な結論が出た。



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*うしろまえ#

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