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―静真 side─



広い室内にキーボードを叩く音が酷く大きく響いていたが、突如それが止むと今までせわしなく動かしていた手をダラリと垂らして溜め息のような声が漏れる。


「………また、奨学生か」


入れ替わりが激しい奨学生たちに何の痛痒も抱かなくなって久しかったが、最近再び頭を悩ませる自分に気づく。

…理由に心当たりがあるが、口に出さずに再び画面を注視する。


「…面倒を起こしそうな性格だな」


調書を見ての性格は厄介な事この上ない。どうあっても近付きたくない。


「…無理だろうけど。副会長にもいい加減困ったものだでは済まされないな」


自分のお気に入りの玩具を見つけよう…と必ず奨学生の案内をする馬鹿を思い出して舌打ちすらしそうな程いらついているのを自覚してまた溜め息。

どんどん幸せが逃げていく気がして理不尽な現状にまた怒りが一つつのる。





…大体入学式の代表挨拶を述べた次の瞬間会長任命式って何のドッキリだ…

そこから授業に参加する間もなく仕事に追われて、やっと理不尽な現状を把握した時には友達が出来る訳もなく孤立。
色目を使っているのだろう生徒?にはよく遭遇するが高等部から入学した俺に迫って落とせると思っているのか?


…向けられる欲にまみれた目に吐き気がして仕方がないから生徒会室に籠もった。

親はベンチャー企業を大学からの仲間達で成功させた強者だ、今も精力的に飛び回る両親は家や物に執着しないし、そうやって稼がれた金を息子だからと使うのは嫌だと感じ贅沢な暮らしなどしていない。
生徒会室の奥に簡易ベットを置いて生活するなんて…と副会長が嫌みを言っていた気もするが黙殺。

食事については申し訳ないが生徒会室まで運んで貰っている…その時やけに気前のいい青年が来て少し喋った後、頼んだ覚えがないサラダを貰った。

それ以来たまに食事を抜く俺に『食生活に気を付けろ』と説教つきで色々世話を焼いてくれる彼は今や唯一に近い話し相手だ。

副会長には俺さえいなければ会長になれたのに…という理由で逆恨みされ険悪。

会計はお楽しみに夢中で生徒会室なんかにまず立ち寄らない。

…書記は…元が無口で頷くか首を振るかでしか返さないし気付いたら寝ている。



…何だろう?この四面楚歌状態。

ため息を何とかこらえてその分脱力。
とにかく眠たくなってきた所にメールの着信を告げるランプが点灯する。



…差出人は『狐』。

最近、「明日の昼に〇〇に来い」とか「明日の放課後××にて待機すること」とかの内容のメールを連日受け取っている。

『狐』の噂は正直何も知らなかったが、最近学内ホームページの書き込みを偶然にも発見した。5分もしないうちに誰かに消されていたが『縁結び』が仕事らしい。


…俺の縁の続く先が彼だったらいい、そんなどうしようもない願いが浮かんだが楽観に過ぎる考えを目を閉じて追い払う。

名前を知っていようが視線が合おうが声もかけられないし、いかにもノーマルだろう彼に自分から接触するのも自意識過剰だった場合流石に立ち直れない。


大体、自分の中にある感情が何かすら明確に出来ない状態で影響力が強すぎる俺が近づくなんて危険にも程がある。





…『狐』の呼び出しに応えているのは俺の中にある感情の輪郭を捉えるためなのだと言い訳じみた事を思いながら、今日も俺は生徒会室から外に出る。



それで『会長に本命が出来たんじゃ…?』という噂が流れた事と、さらにそれは今度来る転入生じゃないかという憶測が飛び交う事を知るのは、まだずっと先の話…



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まえ#

あきゅろす。
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