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 ―紺 side─



…誰も座っていないのに埋まっている席の間を縫って空席を探し出すと、そこに座り目的の人物の方をながめた。


「………見事に囲まれているねぇ」
「俺様に見せてるのをいいことに不機嫌な雰囲気を隠そうともしてないな」


「ながら」食いは行儀が悪いのは分かっているが、今は二人して横目で会長をながめながら早食いをしている。
作って頂いたのに申し訳ないが早食いとは言ってもしっかり味わって久々に美味しく頂きました〜
ちなみに豚カツとサラダは分けて貰ったけど非っ常〜に美味しかったです…!

最後に手作りであろうプリンを美味しく頂いてから本格的に会長の観察。



ちなみに対象者の容姿はこんな感じ。

黒髪を後ろ短めのウルフカットにして左側前方の髪一房を銀に染めている。
瞳は黒のままで比率は格好良さ7割綺麗さ3割といった所か。

人間に『完璧』が存在するなら彼もその類だろうが、まぁどこまでいっても人は人。感情がある限り完全などはないだろうし、あってもつまらない。



そんな事を考えていると、会長が周囲を苛立たしげに見渡し…一瞬だけこちらに視線を留めた。

…といってもまたすぐに視線はあらぬ方角へと向かっていたが。
凝視されても親衛隊に目を付けられたりして大変なだけだという事を相手も熟知しているのだろう。





…ないとは思うが、もしかしたら奏ではなくて他の何かを見たのかも知れない。

一応確認の為に奏に尋ねようとしたら、トレイを持ってかなりの早足で返却口に向かって歩いている所だった。









…耳が赤いとかからかったりしたら倍返しにされるんだろうなぁ…と思いしっかり口を噤んで自分のトレイを手に奏の後に続いて食堂を立ち去った。







―奏 side─



…くそっ、静まれ心臓…っ!


自分の体に文句をつけたくなる程今の俺は心臓を脈うたせていた。
俯き加減にトレイを返却して早々にこの場から去ろう…そう思っていたのに無意識にアイツの方に視線を向けてしまい…

また相手と視線が絡まった気がしてサッとそれを外す。


………俺を気にしてくれたのかもと小さく期待をしている自分が信じられない。
決心はしたものの、自分自身の意識できていなかった変化をまざまざと見せつけられた気分だ。

戸惑いそうになったらしくない心を振り払うように首を左右に振る。


トレイを返却して後ろから近付いて来る奴に無様な姿を見せないようにと平静を取り戻すまで、あとほんの少しかかりそうだ。









―紺 side─



所と時は移って此方は部室。


「一瞬でも見られたんだね?」
「…俺が自意識過剰だったかもな」
「それは無いから安心して…っと、いうことは…長期戦でいきますか!」


奏を問い詰めた結果首尾は上々、2度も目が合うなら掴みは大丈夫なのだろう。

色々質問攻めにしたせいか炬燵にへばっている奏は気怠げだが此方は逆にやる気が出てきて仕方ない。


「……長期戦……?」
「そう、目立たないよう…でも確実に相手の視界に入ってみる。2週間くらい続けて相手が必ず自分を目に留めるかどうか…で今後の接近の仕方も変えていこう」


…とは言ってもあまり心配してない。
糸が繋がっているのなら自分が必要以上に介入する必要はないのだから。

…このやり方で負けなし!と標榜するのも詐欺みたいだけど…自分の本当のお仕事は「理不尽やトラブルに糸を切らせない」ということだ。


「…さ!元気だして奏ちゃん!気晴らしに運動する?それとも一服するかい?」
「…運動する。不完全燃焼な何かが腹の底で渦巻いてるからな…初めてだわ、こんな厄介な感情…」


とりあえず今の仕事は、萎れそうな目前の友人を励ますことかな?








…こんな風に平穏に過ごしていける時間はさほど長くは続かない。

超大型の台風が迫ってきている事を、この時は自分も奏も感じ取れなかった。



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*うしろ

あきゅろす。
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