08





─奏 side─


社から直接登校した俺達は、ヨレた制服もそのままに下駄箱に向かっていた。
紺が偉い勢いで別々に行こうと諭して来たが知ったことじゃない。

「どんな状態かなんてとっくに予測がついていて、それでも俺は行くって言ってるんだよ…いいから早く諦めろ」

割と強い口調で宣言すると諦めたのか渋々俺に並んで歩き出した。























………その数十分後………


「…なんで茂みに隠れてるのやら…」
「…果てしなく嫌な予感がするからだ…」

俺と紺は下駄箱から数十メートルの距離にある茂みに隠れていた。


「多分あとちょい待てば原因が分かる」


…本当に?と言いたそうな相手の頭をペシと叩いてから俺は気配を消した。





















…………数分後…………



「…………………うわ」


ウンザリと言った様子で呻く紺の視線を辿っていくと、奨学生イジメ首謀者の筆頭に上げられる蒲池(かまち)が下駄箱前に陣を張って片っ端から挨拶の如く奨学生を殴っていた。


「…やっぱりな…な〜んか妙な静かさだと思ったら普段早く来るおカマが獲物が少なくなって狩り場と時間を移したのか」
「…正直、奏がここまで鋭いとは予想してなかった…もっと具体的なものが対象だとばっかり…人とか物とか」


唖然としているようだが時間に余裕がある訳でもないので校舎に入りたい。
だが下駄箱はおカマが張っている。
ちなみにおカマと俺は読んでいるが蒲池は別に女言葉でもない、むしろゴツい男だ。名字と性格と性癖と顔が残念だからこんな呼び方をしている。

全国の蒲池さんは気にしないでほしい。

響きと字面のいい言葉なんだから。


「さて、おカマの拳を避けられたのはいいが何処から入るか…」


奨学生は遅刻など厳禁だ。
もちろん早退欠席はもっての他。
破った生徒は中々凄惨な目に遭うらしいが今のところ俺はセーフ。

夜の世間話で紺にこの話題を振ったらガタガタと震えて課題の量と罰の重さを切々と語られてしまった。


…その時俺は絶対遅刻しないと誓った。



「あ、それじゃあこっちだよ」


考え事をする直前の言葉を拾ったらしい紺が俺の手を掴んで促す。

それに逆らわずついて行けば、無駄に部屋数が多い新校舎の空き教室の一つに辿り着いた。

「この教室は…なんか嫌な雰囲気だな」
「普段蒲池…いいや、自分もおカマと呼ぶ事にします。ここはおカマのお気に入りの教室ですから…ヤツが下駄箱にいるならばここには誰もいませんよ」


へー、それは知らなかった。

感心して相手を誉めると照れていた。
………褒められ慣れてないっぽいな。





先に俺の教室が見えて来たので、付いて行くかと聞いてみたが断られたので今回は朝のように言い募らずに別れる。

俺は大丈夫な所を見せた上で別れるという事は心配ないのか…もしくはそれでも来て欲しくないかだ。


それに、頭の良さは明らかに紺が上なのだ…その相手がそれでいいというならそれがいいのだろう…多分。


…どっちの教室もそこそこ敵地だしな。




ガラリと扉を開けた瞬間に刺さる視線。

俺の通うCクラスは劣等感の塊のようなお坊ちゃまの集まりだ。
ここら辺りからS・A・Bと違い大抵の奴が金と実家の地位を評価された奴になってくる…その中で奨学生は3人。
先週1人減ったまま…増員はDに入ったと聞いたがそこも中々危険だ。

一学期の間そこにいた俺が言うんだから間違いない。

学期ごとに昇格、降格があるのは奨学生の決まりだ。そのせいで…いや、お陰でか。一学期から奨学生最高ランクのAクラスに居座った猛者の名前を知っていた。


Cに上がった俺でも今現在同じクラス内で騒がれているからな。紺が騒がれるのは当然と言えば当然か。

とりあえず自分の机に近付いて確認。
元々物は置いていない…が、たまに増えていたりするので要注意だ。
ちなみに今日は増えていました。



可愛らしいピンクの封筒。

でも手紙…しかも何だか嫌な予感
…そうときてしまえばやる事は一つ。


とりあえず机の上に手紙を放り出すと筆箱…さらにその中のシャーペンを取り出して構える。
シャカシャカと封筒をあまり触れないように強めにこすっていくと硬い手応え。



カミソリですね、分かります。


それを開ける事なく鞄に入れて放置。

目の前で捨てたりすれば反感が高まるからな…用が済んで悲しみに暮れるふりをして机に突っ伏す…これくらいの腹芸は俺にもできるからな。


そうしている内に教師が来て授業が何時も通りに始まった。





…いつもなら簡単に意識が黒板に集中するのに、今日だけは昼の事が頭の隅を掠めて仕方がなかった。



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*うしろまえ#

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