絶望の谷風
あぁ、彼女は今、何と言ったのだろう
どうしてもその言葉が脳に浸透せず、僕は彼女に聞き返した
彼女は先と変わらずに、俯いて、もう一度同じ言葉を言った
「ごめんなさい」
そう、ごめんなさい、だ
しかし、それを聞けない程に僕は聞き分けが無い訳じゃない
僕からの愛の告白を、彼女は謝罪で断った。それは理解しているつもりだ
問題は、その後に続いた言葉
「私、ゼルダ姫が好きなの」
あぁ、やはり彼女はそう言ったのだ
一掬いの救いもない、絶望の谷に突き落とす言葉を
──僕が彼女に告白をしたのは、少なからずの自信があったからだ
他の皆とは違う関係を、絆を、僕は感じていたからだ
時折彼女は、熱い視線で以て僕を見つめる事があった。僕は敢えて見つめ返さず、その貫かれるような錯覚を一人堪能していた。他人には寄越さないその視線に、僕は優越感を味わっていた
──見つめ返していたら或いは、僕は告白しなかったかも知れない
その瞳が、本当に僕を通り越していたのだと云う事に、気付いていたかも知れないから
僕に会い、僕を見て、僕と話し、僕が触れる度、彼女は何を思っていただろう
彼女はいつだって、僕でなく、ゼルダを望んでいたのだ
「……ねぇ、」
僕は彼女を呼ぶ。彼女は顔を上げる。今だって、彼女は僕を見ていない
「残念だけど」
彼女は今までも、そしてこれからも、ゼルダに会いに来るだろう
だから、
「ゼルダは、」
繋ぎ止める為に利用する位、構わないだろう?
「僕が殺してしまったよ」
──ゼルダ、僕はね、君にだけは奪われたくないと思っていた
でも、皮肉にも君のお陰で、彼女は手に入ったよ
彼女はこれで、僕にずっと会いに来てくれる
愛する君の仇を討つ為に
そして僕を殺した後に、君をも本当に殺してしまった事に気付くんだ
僕に絶望をくれたように、君にも彼女にも、等しく愛しい、絶望を贈ろう
◆◇◆◇
最初はただの失恋夢だったのに何故かこんな黒の夢に…
09/03/28
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