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艶溽
よみがえる過去7
翌朝、俺と洋子さんと千佳ちゃんと旦那さんの四人は連れだって駅に向かった

俺は電車で現場に行くためで洋子さんは田舎に帰るためで旦那さんは駅からバス通勤していた

いつもは千佳ちゃんは駅まで来ないのだがお母さんの見送りも兼ねて俺達を見送りに来てくれたのだ

「あなた、行ってらっしゃい」

旦那さんがバスに乗るのを見送ってから三人はホームまで来た

俺と洋子さんは反対方向の電車だったので、俺と千佳ちゃんが洋子さんを見送った

洋子さんは電車の中なのに丁寧にお辞儀してくれた

「おじさん、ありがとうございました 母の幸せそうな笑顔を見るのって久しぶりだったなあ」

千佳ちゃんは走り去る電車に手を振りながら呟いた

「千佳ちゃん、なんでありがとうなんですか」

「だって母を幸せ色に染めてくれたんだもん」

千佳ちゃんは両親が不仲なのを知っていた
そして昨晩、俺が洋子さんを抱いたのも薄々感じていた

「何言ってるんですか、邪魔なお母さんをおじさんに押し付けて!幸せ色になったのは千佳ちゃんでしょ」

俺は千佳ちゃんのおでこをチョンと押した

「えへへっ、バレてた?おじさん、ごめんね」

俺に見抜かれて反撃された千佳ちゃんは笑ってごまかしていた

「おじさん、行ってらっしゃい、気を付けてね」

旦那さんよりひと台詞多い千佳ちゃんの見送りだった

俺は本当ならどうすると聞いてみたい気もしていた

母を思うやさしい娘として本心から俺にありがとうと言うか、自分に女の悦びを教えてくれた男を奪った憎い女だと言うのか

まあ、いつか二人並べて抱いてみたいもんだ
ひょっとして旦那さんも含めた4Pもいいかもな

俺の妄想は底なしに広がった

そんな俺にも66回目の誕生日がきた

まあ、生きていれば誰にでも来る事なので特別な感慨はないが…

まだ11月だと言うのに底冷えのする寒い日だった

「おばさん、今夜は寒いからお尻冷やすなよ」

その日も仕事だった俺は会社の食堂で晩飯を食って、賄いのおばさんのお尻を触って帰ってきた

もう日は落ちて辺りは薄暗くなっていた

アパートの前に来ると俺の部屋の前に怪しげな人影が見え隠れしていた

なんだろうと思った俺はその人影に近づいていった

「えっ?直子?なんでここに?」

※直子は俺の前妻です※

「ご無沙汰しておりました」

直子は深々と頭を下げた

「ご無沙汰じゃないだろ?だいたい何でここを知ってんだよ」

俺は直子と別れてから手紙一通、電話一本した事もなかった
もちろん二人の子ども達とも音信不通状態だった

だから直子が俺の所在を知っているはずはなかったのだ

もし誰かが教えたなら千佳ちゃんか洋子さん以外には考えられなかった

まあ、今それを確かめる訳にもいかなかったので俺は近くのファミレスに直子を連れていった

「なんで何も言ってくれないんですか?」

だんまりを決めこむ俺にしびれを切らした直子が俺を睨んできた

「今さら何を言えばいいんだよ それに何を話しあっても最後は言いあいになるだけだろ」

子どもがちょっと言うことを聞かなかっただけで、お前が悪いあんたが悪いとなる夫婦だった

そんな些細な事でも積もり積もると大雪崩になってしまうものだ

「それより今夜泊まるところはあるのか」

「そんな心配されなくても大丈夫です ホテルを探しますから」

「だったら何で来たんだよ」

「どんなボロアパートに住んでるか見たかっただけです」

「そうかい、じゃあ、ファミレスなんかに連れてきて悪かったな」

いつもこんな調子で俺はここで先に店を飛び出すのだ

「じゃあな」

俺はお金を払ってファミレスを後にしたが、誰に聞いたとは聞かなかった

俺は振り向きもせずにアパートまできた

部屋の鍵を開けドアを開けようとした時、直子がアパート前から見つめていた

「なんなんだよ 寒いから来いよ」

俺は直子に駈け寄って手を掴んで部屋の中に引きずり込んだ

「つっ立ってないであがれよ」

俺はお茶を煎れてテーブルにおいた
直子はまだ玄関に立っていた

「寒いからこっちに来いよ なんだよ、さっきはなんで何も言わないのとか言ったくせに、今度はそっちがだんまりかよ」

喧嘩になるのは分かりきった事なので、本当は俺も何も言いたくなかった

「ごめんなさい、あなた…」

直子は玄関で膝をついていて涙ぐんでいた

「いいからこっち来て座れよ
足腰冷えたら大変だろ」

直子はそっと部屋に入ってきて座布団に座った

「実はここの事は洋子さんから聞きました」

直子は俺が聞く前に勝手に話はじめた

「ああ、いつだったか千佳ちゃんの様子を見に来た時に顔を出してくれたんだ」

俺は洋子さんが俺達の事を話したんじゃないかとヒヤヒヤしていた

「その時、洋子さんが…」

ゲッ、やっぱり話してたのか… 俺はこの場をどう繕うか考えた

「洋子さんが一度会いに行ってあげたらって言ってくれて それにわたしにも会いたいんでしょって言ってくれて…」

「今さら会ってどうなる?昔を懐かしみあおうってのか」

「そんな…実はわたし、あなたに謝らなければならない事があるんです…」

「今さら何を謝るってんだよ?俺達はもう他人なんだぞ」

「そうですけれど…」

なんだか俺の知っている直子じゃないみたいだった

「で、何を謝るってんだよ」

「実はわたし…」

また長い沈黙が続いた

「言いたくなきゃ言わなくてもいいや、それより足だせよ、冷えてんだろ?お前は昔から冷え性だったからな」

まだ暖房を入れるほどではなかったが、玄関に座りこんでいた直子の足は氷のように冷たかった

俺は冷えた直子の足を20分ほど擦ってやった
それくらいでポカポカ暖まるはずはないが

「ありがとうございます、おかげで楽になりました」

「ああ、何だか知らんがせっかく訪ねて来てくれたんだし、昔のよしみってやつだ」

「うふっ、相変わらず優しくないんですね」

嫌味を言われたらいつもなら言い返す俺だが、直子の小さな微笑みに何も言えなかった

「今日はもう遅いから寝ろ、俺も明日朝早いからよ 俺は下で寝るからベッドで寝ろ」

ぶっきらぼうに言い放ってから直子をベッドの布団の中に押し込んで、俺は座布団を並べてタオルケットを掛けて横になった

「あなた、それじゃ風邪引いてしまうわ、あなたがベッドで…」

「それならお前が風邪引くだろ、俺は大丈夫だ」

「でしたら一緒…」

という訳でシングルベッドでジジイとババアは横になりましたとさ

もちろん背中合わせですよ、あはは

「なあ、直子…」

「ねえ、あなた…」

俺と直子は同時に声をかけた



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あきゅろす。
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