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夏色の想ひ出
エケテケ
予定の宿題量を終えた健太と智子。

智子「海、行く?」

健太「う〜ん」

健太は仰向けになり天井を見つめた。

小学生の面倒見は祐輔と幸子に引き継いであるので、とりあえずやる事もなかった。

健太「街に行かねえか?」

街というのは久美子が住む旧市内の事である。

県内二番目の市でも人口は減り、シャッター街になりつつあった。
それでも、デパートや映画館は頑張っていたが。

智子「それなら隣町のモールに行こうよ」

市街地にも大きなショッピングモールがあった。
食堂街やファッション街などがあり、家族連れには人気のモールだった。

しかしバスだと二時間近く掛かるので、智子は自転車で行ける隣町のモールにしようと言ったのだ。

健太「わかった、自転車取ってくる」

智子「待って、キスしてから行って」

健太は智子の肩に手をおいて唇にキスをした。

智子「ありがとう♪じゃあ、待ってる」

家を出てからキスをする訳にはいかないので、部屋の中で求めたのだ。
そういう挨拶がわりのキスはしょっちゅうだった。

智子は健太が触れてくれた唇に半透明のリップを引いた。
由美からプレゼントされたものだった。

隣町のモールは規模が小さいだけでスイーツもあれば食事も出来るし、小さいながらも映画館もあってそこそこ楽しめた。

特にスイーツとラーメンが人気で、夏場は和風っぽいかき氷ととんこつ冷やしラーメンがよく売れていた。

智子は抹茶味のかき氷を、健太はあんこと練乳掛けのかき氷を頼んだ。
何味でもよかったのだが。

瞳「あら、あなた達は…」

智子「あっ、こんにちは」

一昨日に会ったばかりなので忘れるはずはなかった。

瞳と京介もデート中にここに立ち寄ったのだ。

四人はエアホッケーをしたりバスケゲームをしたり、本を立ち読みしたり洋服を見たりして時間を過ごした。

同年代の友達と話をするより緊張したが、瞳は優しく語り掛けてくれたのだ。
瞳と京介は過去の自分達を思い出して、智子と健太は未来の自分達を思い描いていた。

智子と健太はキーホルダーを買って帰っていった。

智子「はい、どうぞ」

亜紀にキーホルダーを手渡した。

二つに分かれていて、合わせるとハート型になるもので中にアルファベットが一文字書けた。

智子は『K』と書いて健太は『T』と書いて交換した。
亜紀と和也も『K』『A』と書いて交換した。

それぞれ合わせたりして笑いあった。

武志「エケテケって、何かのグループ名ですか?」

智子「エケテケ?何それ?何かの呪文?」

武志「だって、A、K、T、Kでしょ?だからエケテケ…」

武志は順番に指差した。

智子「ぎゃはははっ、武おじさん、おもしろ過ぎ〜、あはは」

智子はお腹を抱えて転げ回った。
それに気がついた三人も笑い転げた。

孝子「どうしたの?」

孝子と史織と由美が寄って来た。

智子「だって、だって、武おじさんが、あははっ」

笑いは止まらなかった。

孝子「あはは、エケテケは笑える〜」

史織「ほんと、おかしい♪」

由美「もう…♪」

笑いは笑いを呼び寄せてさらに広がった。

友也と陽子と奈津実も同じものを欲しがった。

武志はみんなを連れて買いに行く羽目になってしまった。

亜紀「和也くん、連れてきてくれてありがとう、チュッ」

和也「僕じゃないけど…」

亜紀「ううん、和也くんのおかげよ、ホタルも花火も海水浴も智子さんと健太くんも、全部…」

史織「和也くん、私からもお礼を言わせて…ありがとう」

和也「おばさん…」

史織は亜紀と和也を合わせてから二人を抱きしめた。

孝子「よかったわ…怒鳴り込まれた時はパニクったわ…どうしようって…お義兄さんのおかげよ、ありがとう」

孝子は由美に凭(もた)れ掛かり涙ぐんだ。

史織「ごめんなさい…」

孝子「ううん、私でもそうすると思う…奈津実がそうなったら狂ってしまうわ」

由美「はいはい、その奈津実ちゃんが心配しているわよ…奈津実ちゃん、大丈夫よ」

武志「あのお、海が待っているんですけど…」

陽子「わあい♪行く行く〜」

亜紀「行こ行こ!男性陣は出ていけ─!」

日は傾きはじめていたが、日差しは強く肌を容赦なく焼いていた。

智子と亜紀は並んで座り健太と和也から日焼け止めクリームを塗ってもらった。

陽子と奈津実は由美から、友也は孝子から塗ってもらって駆け出していった。

すぐに、男子対女子の水掛け合戦が始まった。
由美と孝子と史織は女子の味方に回ったが、男子からの攻撃は半端じゃなかった。

そこへ小学生の子供達がなだれ込んできて、てんやわんやになった。

亜紀(エケテケか…意味のない言葉だけど、おじさんてやさしいんだね…)

中絶手術の痛み(心の痛み)が消える訳はないが、亜紀はそれを感じさせないようにしてくれる由美と武志に感謝していた。

東京に戻る前の日の夜は、音もなく静かに忍び寄ってきていた。


続く

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