夏色の想ひ出
他人なのに
無事手術の終わった亜紀は武志におんぶされていた。
これからも妊娠できますよと言われ一同はホッと胸を撫で下ろしていた。
亜紀「おじさんの背中って暖かい…他人なのにどうしてそんなに優しいの?」
武志「ん…、由美さん、お願いします」
由美「はいはい、亜紀さん、他人てどう書くかしら?」
亜紀「他の人?」
由美「他の人って自分以外の人っていう意味?それならお母さんも他人になっちゃうわよね?」
亜紀「ママは他人じゃないもん…」
由美「そうね、じゃあ、家族以外の人?だったら和也くんは他人?」
亜紀「和也くんとは他人じゃない気がする…」
由美「そうよね、和也くんは亜紀さんの大切な人ですものね♪じゃあ、和也くん以外は他人かな?和也くんのお父さんやお母さんは?」
亜紀「う〜ん、よくわかんない…」
由美「じゃあ、和也くんのお母さんから亜紀さんは他人だからって言われたらどうかしら?」
亜紀「悲しいかな…そんな事言われたら泣いちゃうかも」
由美「そうよね、悲しいわよね?じゃあ、お友だちはどうかしらね?」
亜紀「友だちからも言われたくない…」
由美「お友だちのお友だちはどう?」
亜紀「あっ、そういう事なんだ…おじさんやおばさんは和也くんのパパやママの友だちだからなのね」
由美「そうよ、そういう事なのよ」
亜紀「じゃあ、じゃあ、おばさんの子供達とも友だちって事よね?ねっ、ねっ、そうでしょ?」
由美「陽子に聞いてごらんなさい」
亜紀「陽子ちゃんて言うの?亜紀です、よろしくね。陽子ちゃんは私と友だちになってくれる?」
陽子「陽子ね、みんながお友だちならいいなって思ってるの…仲よかったらけんかしないでしょ?お姉ちゃんともけんかしたくないもん、なかよくしたいもん」
亜紀「うん、うん、仲良くしようね陽子ちゃん」
陽子「やったあ〜♪パパ、ママ、大好きなお姉ちゃんがまたふえちゃったよ、わ〜い、わ〜い♪」
由美「亜紀さんよろしくね」
亜紀「私こそよろしくお願いします」
史織「あ、ありがとうございます…娘のこんな笑顔を見られるなんて…ほんとにありがとうございます」
亜紀「ママ、陽子ちゃんを抱っこさせてもらったら?」
陽子は史織に抱きあげられてご満悦だった。
奈津実「私も抱っこして〜」
和也「奈津はお兄ちゃんが抱っこしてやるよ、おいで」
兄に抱っこされた妹は満面の笑みを浮かべていた。
亜紀「和也くん、おじさんがホタルのおじさんなの?」
和也「そうだよ」
武志「ホタルのおじさんて何ですか?」
和也「前にお邪魔した時にホタルを見に連れてってくれたでしょ?その話をしたら、ホタルが見たいって…」
武志「そうですか、ホタルのおじさんか…逆ボタルになりそう」
和也「逆ボタルって?」
武志「お尻じゃなくて頭が光るホタル♪」
亜紀「ぎゃははっ、ハゲって事じゃん」
史織「これ、だめでしょ…」
和也「おじさんはハゲにはならないよ」
由美「じゃあ、これからホタルを見に行きましょうか、武志さん、いいでしょ?」
武志「いいですけれど、俺はちょっと用事があります、和也くんと友也くん、お願いします」
という事で、由美と陽子とあゆみと孝子と和也と友也と奈津実と亜紀と史織の民族大移動が始まった。
移動中の電車の中。
孝子「お義兄さんの用事って何かしら?」
由美「株の事で証券会社の人と会うって言ってたわよ」
孝子「ふうん、ところでお義兄さんはお仕事、何してるんだっけ?」
由美「勤めてはいないの。株の配当とか、小さな田畑を耕しているわ。わたしと陽子もお手伝いしているの」
孝子「だから子供達の面倒も見れるんだ…へえ〜」
孝子は、以前寄せてもらった時にずっと家に居た事を不思議に思っていた。
その頃武志は、靖雄と友行を車に乗せて高速道路を飛ばしていた。
友行「滝田さん、昨日は無礼な事を申して失礼しました」
靖雄「私にも娘がおりますのでお気持ちはわかります」
怒りが収まれば争いもなくなるものだ。
友行「足立さん、娘が大変お世話になりました。優しい背中だったってメールが来まして…」
武志「そうですか、よかったです」
友行「これからは嫁や娘の方を向いて行きます」
武志「大城さん、嫁や娘じゃなく『史織』さんと『亜紀』さんですよ」
友行「そうでしたな、家族と言えども人間対人間でした」
靖雄「ところで奥さんの事ですが…」
靖雄は和也の父親として、もう一つの事実を詫びようとした。
友行「足立さんからお聞きしました。元はと言えば私があいつ…史織をほったらかしていたのが原因ですから…和也くんは悪くないですよ」
靖雄「そう言って頂けると助かります。武志さんも、ありがとうございます」
武志「本人が何度も言うのも辛いですからね、俺は部外者ですから平気で言えるだけですよ」
友行「部外者だなんて…足立さんが中心じゃないですか」
由美たちが家に着くと玄関前に、久美子と和代と蘭子と澄江と見知らぬ男がいた。
由美「久美子ちゃん蘭子ちゃん、待たせたわね」
久美子「こんばんわ、私達も今来たばかりです」
由美「嘘言わないの、同じバスじゃなかったでしょ」
久美子「えへへっ」
蘭子「こんばんわ♪」
和代「私まで呼んで頂いてありがとうございます」
澄江「今晩は、あの…婚約者の鷹栖幸男さんです…」
恥ずかしそうに少しうつ向き加減の澄江。
幸男「鷹栖です。お初にお目にかかります」
由美「由美です。ご結婚、おめでとうございます♪」
澄江「結婚はまだ…」
陽子「久美子お姉ちゃん、蘭子お姉ちゃん、こんにちわ、あのね、陽子にね、新しいお姉ちゃんが出来たよ♪」
亜紀を紹介した。
亜紀「あ、亜紀です…よろしくお願いします」
友達の友達も友達である。久美子達と亜紀達は、すぐに打ち解けあった。
そこへ武志達が帰ってきた。
亜紀「あっ、パパ…」
史織「あなた…」
孝子「お義兄さんの用事って二人を呼びに行く事だったのね?由美さん、言ってくれればいいのに…」
由美「うふふ、それじゃサプライズにならないじゃないのよ」
武志「さあ、入った入った」
つい2〜3年前は、広い家に武志一人だったが、今は狭っ苦しくなった。
史織「あなた、私…」
友行「来る間に足立さんから聞いたよ、滝田さん達に史織から打ち明けたって…
何度も言うのは辛いだろうから何も言わなくていいよ」
史織「あなた…今、史織って呼んで下さったの?」
友行「ああ、足立さんに奥さんや娘じゃなくて、人間対人間だって言われてな」
史織「そうでしたの…それで私の事は許して頂けるの?」
友行「許すも許さないもないだろ、私こそ悪かったな…」
史織「あなた…」
亜紀「パパ…」
友行「亜紀にも淋しい思いをさせてすまなかった。体は大丈夫か?」
亜紀「うん、おじさんが背中で暖めてくれたから…」
友行「そうか、よかったな」
亜紀「うん、パパ、孫を抱けなくなってごめんなさい…」
友行「バカだな、これからじゃないか、心配するな」
亜紀「うん、ありがとう」
健太・智子「武おじさん、お待ちどうさまあ〜」
勝之「武さん、重いんだから早く取ってくれよ」
健太と智子が料理を、勝之がビールを持ってやって来た。
武志が手配していたものだ。
由美「武志さん、おめでたい話が…」
武志「えっ?またご懐妊ですか?」
澄江「お久しぶりです、婚約者の鷹栖さんです」
武志「だから妊娠…」
由美「武志さん!ほんとに打つわよ!澄江さん、ごめんなさいね」
澄江「いえ…実は…ほんとなんです…」
鷹栖「すみません…」
由美「まあ…ダブルでおめでたいじゃないの」
大人達はビールで、子供達はジュースで乾杯した。
誰がどういう知り合いとかなんて関係のない宴会だった。
武志「勝(かつ)、いい加減に嫁をもらえよ?」
勝之「縁がなくて…」
武志「あの人は?子連れだけど」
武志は顎をしゃくって和代を指した。
3〜4歳年上だったが、申し分ないだろうと思ったのだ。
和代にもそれとなく打診すると和代もまんざらでもない表情だった。
まるっきり知らない仲ではなかったが、きちんとしたお礼を言っていなかったのでお礼を兼ねた会話は弾んでいた。
お腹の子供を失った女と宿した女も居たが、仲良くホタル狩りに出掛けた。
亜紀「パパ、ママ、そっちに行ったよ、捕まえてよ〜」
友行「よっ、はっ、待て〜」
史織「あなた、腰を痛めないでくださいな」
和也「健太くん智子ちゃん、久しぶりだね」
健太「ああ、久しぶり!去年も来るかなって思っていたのにな」
智子「ほんと、健太よりかっこいい和也くんに会いたかったのに」
健太「まあ、それは認めるけど後でお仕置きだな!ところで彼女か?」
和也「うん、二人の仲の良さに当てられたのかな、思いきって付き合ってくださいって言ったら、いいって…」
亜紀「あれ、和也くん、いつ付き合ってくださいって言った?聞いてないわよ…ほら、ホタルを捕まえてよ〜」
大人達は童心にかえり、子供達は未来の光を捕まえようと懸命にホタルを追っていた。
続く
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