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胡蝶の夢 塚不二
 気付くと俺は花に囲まれていた。

花のなかに倒れ込んでいる。

茎に足を取られ、葉が視界をさらい、身動きも出来ずただ花にうずもっていた。
 
 瞬時に、これは夢だと悟った。

 現実にこれほど幻想的な花などない。

現実はなにもかもが現実過ぎて、滴るような美しさなど付け入る余地も無い。
唾を吐きたい位につまらない。

 手で葉をどかし、辺りを見回すと一面の花嵐。

緩やかな風に揺れている。

 風は緩やか空は快晴辺りは一面花畑。
ここは天国かも知れない。
どうせ夢ならこのままうずもれていてもいいだろう。

俺は今に甘んじることにした。



 一時作りものかと猜疑心を抱いた花は、確かに生きていた。

地に根を下ろし誇らしげにそれは在った。

どんなに小さくとも、儚くとも花はそこに在った。

それは俺を優しく包み込もうとも圧倒しようともしていた。



 こんなに沢山在るのだから、一輪くらい失敬しても構わないだろう、叶うことなら不二にも見せてやりたい。

夢であることも忘れ花に手を伸ばした。

その一瞬花たちは示し合わせたかのように俺に向かってなだれ込んできた。
 流れは思いの外ゆっくりでじわじわと俺の体を蝕んでいった。

 

 花が俺を侵食している。
花が俺を侵している。

いや、俺が花を侵食している?
俺が花を侵している?



 花が俺を侵しているのか俺が花を侵しているのか、俺ははかることが出来なかった。


 しかし花に埋もっているのは心地いい。

このけだるい感覚に身を委ね流されるも善いかも知れない。

俺は目をつぶった。







 そろそろと目をあけると心配そうな顔の不二がいた。

「夢を見てたんだ」

 なかなか目を醒まさないから心配したよ、もう4時間も寝てる、昼寝にはちょっと長いよ、眉間に皺を寄せたまま微笑した不二を手塚は抱き寄せた。


「どんな夢だった」

「花に侵食される夢なんだが、途中で俺が花を侵食しているのか花が俺を侵食しているのかわからなくなった」

「随分抽象的な夢だね」

 ああ、花があまりにも綺麗だったからついに天国に行ってしまったのかと思ったと言うと、腕のなかの不二はまだ昇天されちゃ困るとからから笑った。
「ねえ、手塚。花もいいけどさ、でもさ」

 急に真顔になって不二は俺を見つめた。

「僕にだって構ってよ」

堪らなくなって、不二を真正面から掻き抱く。



  わかった。今わかった。

 


 もっと触れていたい、大切にしたいと思う気持ちが花なのだ。

 愛おしいと思う、この気持ちこそが花なのだ。



「不二、好きだ」

「わかってるよだんまりむっつり眼鏡」


 だとしたら俺は相当花に侵されている。

 毒されている。






 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
砂吐き甘っ
グラニュー糖吐きそう

題名は有名な荘子斉物論の故事、「胡蝶の夢」より



オノ

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あきゅろす。
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