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曹田操興信所
2
堂々巡りの自問自答を頭の中でしていると曹田の手がピクリと気付いたように動く。意識
が戻ったらしい、苦痛に顔を歪めながらも肺へ空気を運んだ。

「…う…ゴホッ」

「所長!?」

「し、 ば」

重そうな唇は動く度に朱い液体が溢れて、思わず目を背けたくなる。

「待って下さい!今病院へ……!!」

行って間に合うか
どんなときでも正確に現状を把握しようとする能力をこの時程呪った事はない。そのくせ
いざとなったらこの場から離れる事さえ覚束ない。このザマだ。

「…げ、ん ょ…」

「!?な…何です?」

曹田が何と言ったのかは良く聞こえなかったのだが、その顔は何故か満足そうに微笑んで
いるように見え、震える手で自分の胸元の保身を図ってくれた従弟の頭を何度も撫でた。

冷たくなった夏目の顔から眼帯は惨事の荒々しさを物語るように外れ、少し離れた床に落
ちていた。何か怪我をと常々思っていたのだが、芝井が初めて見たそれは

「…」

傷一つ無い綺麗な左目

もう開く事が無いのが残念な位
どうしてこうなる前に気付かなかったのだろう。どうしてこうなる前には気にもかけな
かったのだろう。曹田の腹を押さえながらも、自分の頬に流れるものを抑えられなかった。

「…所長…」

命を繋ぎ留めるように

「…またお二人して私を置いて逝かれるのですか」

また?
不意に口から零れた言葉に自身が驚く。


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