曹田操興信所
1
その日は今思えば
扉の前に黒猫がいた
事務所の扉は古い木が軋む音を立てながら閉まる、と思いきやうまくは閉まらなかった。
「む…。おい扉そろそろ修理しないか?最近まともに閉まらんぞ」
今しがたそれを体験した夏目が訝しげに手できっちり扉を閉じた。前々から痛んでいたのだが、そろそろ限界らしい。鍵さえ錆びているのか掛かりが悪くなっていて、もはや板きれも良い所だ。しかし、問われた人物は大して興味もなさそうに手元の雑誌をパラリと捲る。
「…そうだな、しかし金も無いしのう」
「袁藤の金は?」
横から口を挟む芝井に曹田はバツが悪そうに呟いた。
「…‥もう無い」
「Σなッ無いですと!?」「何に使ったんだ!?」
「貴様等の滞納給料を払ってやったからだろうが。しかもあの後打ち上げに寿司を食いに行ったろう!!!」
曹田も二人に負けじと立ち上がって人差し指を向けた。
「馬鹿なッ!!!それだけであの大金が消えますかっ」
「芝井が高い店選ぶからだぞ!!!」
「惇、一番食ってたのはお前だがな!!!」
年甲斐もないぎゃあぎゃあ騒ぐ三人の責任の擦り付けあいは、ノックの音と扉の外の声で一瞬静まることになる。
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