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初恋は幼馴染み
お料理をしましょう

「さぁ!只今スタートした紅蓮トップ3による料理対決ー。愛ちゃんの舌を唸らせるのは誰なのか…。勿論颯二くんが勝つけどねー」

今、目の前で起こっていることが何度夢であってほしいと願ったか。無理矢理椅子に座らせられ、呆気にとられる。



休日、何をしようか考えてた俺に災難が降りかかる。
部屋に突然現れた鶴ヶ崎先輩に拉致され、車に乗せられた。
後部座席に逃げないよう肩を抱かれ、おまけにちょっかいを出される。
不本意とは言え、車に乗せてもらっている立場だ。運転手に挨拶をとバックミラーを見ると、

「こ、近藤さん?」
「久しぶり。永倉くん」
「お久しぶりです」

美味しいホットケーキを作ってくれた近藤新さんだった。

「何で、近藤さんが…?」
「隣の馬鹿に今朝イタ電されて出たら車出せ、だぜ?いやー。面見た瞬間顔面に蹴り入れてやったよ、ホント」

"馬鹿"を強調して爽やかに言って見せる近藤さんに寒気がした。先輩たちの溜まり場でバーを経営するだけ何かあるのかもしれないけれど、今は考えないようにした。

「もう超痛かったんだから!慰めてよー」
「は、はい…」
「何言ってやがる。しっかりガードしやがって」

すがりついてくる先輩の頭を撫で、早くこんな所から脱出したいと願う。
そんな願いが誰に届くはずもなく、車に乗って二十分くらいか。
普通の家っぽい前に車を止め、下ろされる。
近藤さんに下りようとする様子はない。
助手席の窓が開いて、俺はお礼をと思い覗き込むと苦笑に似た笑みを浮かべていた。

「永倉くん。まぁ、頑張って」

やる気の無い"頑張って"に気にならないわけがなく、なぜ、と聞くよりも先に車は動き出してしまった。

「ほら、行くよー」

呆然と立ち尽くしていると鶴ヶ崎先輩に手を引かれ、家らしき場所に入る。
一番最初に目が行くのは二つの靴。どちらも男物で俺より大きい。

――もう誰かいる?

「おじゃまします…」

靴を揃えてる横で鶴ヶ崎先輩は脱ぎっぱなしで揃える素振りすらせず、上がった。言っては悪いがだらしがない。
もし、これが他人の家だったら目の前にいる人はなんて失礼だろう。
廊下を歩いて直ぐのドアを開く。そこはキッチンが複数ある、所謂キッチンスタジオだった。

「おせぇぞ。颯二」
「うっさいなぁ。いいじゃん。愛ちゃん連れてきてあげたんだから」

――人拐いだと思います。鶴ヶ崎先輩。

「んだと?つか、新から電話あったけどお前、蹴り入れられたらしいな。マジ笑える」
「はぁ!?」

――で、でも何これ…!?

用事があると言って出てった犬塚さんや腰に巻くエプロンがあまりにも似合ってない白神先輩が既にいて、何が何だか意味がわからない。

「永倉」

犬塚さんに呼ばれて傍まで駆け寄った。

「犬塚さんっ!どうしたんですか…その、格好は…?」
「なんだ。あいつ、聞いてないのか」
「え?」
「…おい、颯二」

何を言っているんだろう。首をかしげると犬塚さんはそう呼んで、口論中だと言うのに鶴ヶ崎先輩はくるりと回り、こっちへ近づいてきた。
どうしよう。笑顔が怖い。

「だってぇ、愛ちゃんといちゃいちゃちゅっちゅするのが忙しかったんだもん。ねー」
「…………」
「なな何言ってるんですかっ!嘘言わないで下さい!!」


すこぶる恐ろしい表情を浮かべた犬塚さんが目の端に映って即座に訂正した。

「そんなことよりも!何なんですかっ!?この状況!全然理解できないんですけど」

たまらず声を荒げてしまったが、鶴ヶ崎先輩は気にすることなく俺の背中を押して椅子に座らせた。

「愛ちゃんは毎日朝昼晩の三食作ってるわけでしょ?料理ってすごい労力使うって身を持って分かってきたじゃない?」
「…どちらかと言うと、買い物のほ「疲れるよね?」

有無を言わせない笑み。いつもの表情なのに目は鋭く俺を射止め、心臓を直接掴まれる様な感覚に陥る。
恐い。こんなことで不良を発揮しないでほしい。

「つ、疲れます…」
「だよねー!それでね、颯二くんは考えたの。たまには愛ちゃんに楽させてあげたいなぁって。料理してあげようかなって思った訳」

その良心は素敵だと思うが拉致なんてされない方がもっと落ち着けた気がする。

「でも、ただ料理するだけじゃつまんないじゃん?」
「?」

鶴ヶ崎先輩の思考回路がよくわからない。普通に料理して終わりでいいじゃないか。

「だから料理対決にしたの。ここは本格的且つ平等になるようキッチンスタジオを借りちゃいましたー。あ、勿論愛ちゃんが審査員兼実況兼賞品だから」
「ほ、本気ですね…」
「俺はいつでも本気だよー」
「…………」

――……あれ?

今、物凄く聞き捨てならない言葉が合った気がする。聞き間違いかな。

「審査員と、実況と…」
「賞品。対決って言ったら賞品がなきゃテンションだださがりでしょ。常識的に考えて」

確かに賞品が合った方が盛り上がるけど、俺からしたらさっきから下がりっぱなしだ。どこをどうしたら俺が賞品になるんだ。
そして、冒頭に戻る。
ここはもう、潔く諦めて賞品になるしかないのか。
制止しようかとも考えてみたが…

『なら、このキッチンスタジオ借りたお金。払ってくれる?』

大いにあり得る。
俺はここの代金を払えるほどお金を持ってるわけもなく、押し黙った。
溜め息を吐いて、普段料理してるところなんて見たことがない三人の姿を見る。

――俺のことを思ってしてくれてるんだから、仕方がないのかな。

無理矢理ポジティブに考えて自分を納得させた。

「愛ちゃん、愛ちゃん!実況ぅ!」
「は、はいっ」

しかも実況なんて生まれて初めてだ。前に出る役柄でも無いからこういうことは苦手だ。
椅子から立って、まずは一番近い鶴ヶ崎先輩に近寄る。

「えーと…何を作るんですか?」
「普通にカレーかなー。やっぱ嫌いな人いないでしょ?」
「世界三大珍味をこの目で見る日が来るとは思いませんでしたが…まさか、これ…」
「え?勿論入れるよ」

そんな屈託の無い笑顔向けないで下さい。何故か心だが痛くなる。無論、食材の方に。
カレーを作るのに強力粉もパイナップルもドリアンも要らない。他にも色々あって目を背けたくなる。
その中にあの珍味を入れるなんて、使い方を知らない俺でもそれは間違ってると胸を張って言える。それでもそんな勇気があるわけがなく、苦笑を浮かべるのみだ。

「た、大変そうですし手伝いましょうか?」
「えー。それはルール的になぁ…」
「どうしても手伝いたいですっ!」

ルールなんて関係ない。それを食べる俺の身にもなってくれ!と心の中で叫ぶ。

「じゃあ、一人一回愛ちゃんのサポート有りで」

――良かった!

せめて、その不必要なものを取り除かなければ…!

と、思って鍋の蓋を取ってみて

「…………」

瞬間、蓋をした。もしかしたら、幻を見ているのかもしれない。そうだ。きっとそうに違いない。
もう一度意を決して蓋を開ける。
そこにはさっきと変わらない、料理では見たこともない色をしていた。途端に刺激臭が鼻を刺激して再び蓋を閉めた。

「………あの、これは?」

聞きたくはないが、恐る恐る聞いてみる。

「あぁ。カレーって日が経つにつれてとろみが出るでしょ?だから、昨日作ってきたもので今日は仕上げ的な感じ」

どうやら俺の人生は残念ながら短かったようだ。
適当に食材を切っては入れてを繰り返し、その場を一時離れて、犬塚さんの方へ足を向ける。
もし、二人とも鶴ヶ崎先輩レベルだったらどうしよう。
手に尋常じゃない汗をかきながら不安と恐怖を抱きながら犬塚さんの料理する姿を見て、数回の瞬き後に我に返った。

料理の仕方も手際も俺なんかよりずっと上手かった。
和食が中心の様だけど、次々に料理が出来てくる。定食みたいだ。

「凄い…」

今まで犬塚さんが料理をしてるところなんて見たことがなかった。
思わず漏れた感嘆の声に犬塚さんが笑った。

「何見とれてんだよ」
「だ、だって…俺、犬塚さんの料理する姿なんて見たことなかったし……」
「そうだな。お前が来る前もたまにしか作らなかったからな

味見しろ」

小さなお皿を渡されそこにある味噌汁を飲む。

「美味しい…」

味噌汁が食道を通り、温かいものがじんわりと胃に広がる。濃さも丁度良いし、一度だけ作った俺の味噌汁よりずっと美味しい。

「そうか。なら良かった」

お皿を返すと優しく微笑む犬塚さん。こんなイケメン見たことない。
何か手伝おうと言ってみたが、大丈夫と言われてしまうと手を出すわけにもいかない。
俺は今、最も行きたくないエリアに向かおうとしている。

「な、何か手伝うことはありますか?」

白神先輩だ。

「…胡椒」
「どうぞ」

でも、この人は何でこんなことに参加したんだろう。主催者の鶴ヶ崎先輩に無理矢理連れられてきたのかな。
そうだとしてもこの人が料理をするなんて意外すぎる。
しかも、結構上手いし手際も良い。

「キャベツ千切りしろ」
「はい」

切るくらいならできる。隣ではハンバーグを掌ほどの大きさに形作ってる白神先輩。
溜め息を吐きながら作業する先輩に一応被害者でもある俺が悪い気持ちになってきた。

「すみません」
「あ?」

切っていた包丁を置いて謝る。すると、訳がわからないと言った風に見下ろされる。

「変なことに巻き込んでしまって…料理まで…。」

せっかくの休日だし、それに先輩にも予定があったかもしれない。

「ちっ…」

大きな舌打ちにビクッと強張る。

「あてっ」

が、直ぐにでこぴんされた。ハンバーグを触っていた手で。

「俺がタダでこんなことやる分けねーだろ」
「…?じゃあ、何で――」

ニヤリと怪しく笑う。さっきの犬塚さんとは対をなすほど嫌らしい笑みだった。
そして、俺は聞かない方が良かったと後悔する。

「勝負に負けた颯二と賞品をかっさらわれる犬塚の歪んだ顔が楽しみだからなぁ」
「そ、そうですか……」

至極楽しそうな顔で何てことを言うんだ、この人は。


それから、暫くして三人の料理が完了した。
作った本人以外が食べてどれが美味しかったか判定をすることになった。
まず、ここはもう一人くらい第三者を呼んだ方が良かった気がするが…この際どうでもいい。
犬塚さんと白神先輩の料理は非常に美味で甲乙つけがたい勝負だった。白神先輩も犬塚さんもお互いのものを食べ合って言葉はなかったが、顔にはちゃんと美味いと言っていた。
けれど、これで終わりならば良かった。一番の問題児がまだ残っているんだ。

「はーいっ!じゃあ、最後は俺の番ね」

目の前に出されたカレーと呼ぶにはあまりにも申し訳ないもの。初めて見た二人はこの物体に言葉が詰まっているようだ。

「味見は、したのか」

恐る恐る犬塚さんが尋ねる。白神先輩も顔面蒼白で、こんな姿の二人は初めて見た。

「したよ?あ、もしかしたらちょっと辛いかもしれないなぁ」

辛いならまだ良いが、何でルーが青みがかっているのかが不思議でならない。

「ささっ食べて食べて!」

スプーンを持つ手がかたかたと震える。ご飯とルーを一緒に掬って三人同時に食べた。

――なに、これ…

真っ先にトイレへ向かったのが白神先輩だった。
辛いとか、甘いとか、匂いのレベルじゃない。食感が感じたこともないものだった。飲み込めない。体が拒否しているのかもしれない。吐きそうだ。
だけど、ニコニコしてる鶴ヶ崎先輩の前じゃ戻すにも戻せない。
犬塚さんも飲み込もうと努力したらしいが、折れてゴミ箱のある方へ。

机にあった三人分の水を飲んで全て飲み込んだ時には意識は朦朧としていて最後に聞いたのは白神先輩の鶴ヶ崎先輩を呼ぶ怒声だった。


気が付くとそこは見慣れた天井。起き上がると未だに気持ち悪い。
後日、犬塚さんに聞いてみると料理の賞品どころではない乱闘騒ぎが起きてしまい今回の料理対決は流れたんだとか…。




(正しい)お料理をしましょう

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永遠さまリクエスト
紅蓮三人(犬塚・白神・颯二)×愛斗
紅蓮三人組と料理をする愛斗のほのぼの話

長々となってしまいました…;すみません…
それに料理もあまり一緒にしてないし…。




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あきゅろす。
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