[携帯モード] [URL送信]

赤と黒
借金
携帯小説グランプリ
この物語はフィクションであり、登場する人物名、会社名、学校名は実在するものとは一切関係ありません

─本編─

郁男の父は、郁男が大学在学中に再婚する

再婚相手は父より若く、郁男より10歳も年下の女の子が連れ子だった

当時、郁男が大学生で、連れ子の女の子は小学生だ

話が合うはずもなく、興味もない

当時はそんな感じだった

そんな父の再婚からもう11年が経つ

郁男は現在会社社長

大学在学中に起業し、この10年で会社を大きく成長させた

家を出て、現在はマンションの最上階の部屋に一人で住んでいる

一方、父はリストラで失職

しかし妻がまだ働いているため、その収入で細々と暮らしていた

そんな父が突然、郁男のマンションを訪ねてきたのだった

「おう、父さん、まあまあ入ってよ」

「ああ、邪魔するよ」
と父は靴を脱いで部屋に入った

リビンクには大きなソファがある

郁男はそのソファを指差し
「そこに座ってよ」
と言った

郁男はキッチンでコーヒーの仕度をする

紙筒をカップの上に乗せるドリップ式のコーヒー、一流カフェのものだ

「どうしたの、父さん。普段は電話もしないくせに…」
と健二は言いながら、コーヒーのドリップを待つ

「アハハハ…、やっぱり俺が来ると何かあったって解るよな」
と父は苦笑いしていた

「何? やっぱり何かあったんだ」

「あんまりお前にこういうことを頼みたくないんだが…」
と父は言うが、その後は口を閉ざしてしまう

「えっ、何? どうしたの?」

「うん… まあな…」
と言葉を濁す父

コーヒーのドリップが終わり、郁男はコーヒー2杯を持ってソファに座る

そして、そのうち1杯を父に差し出した

父も昔からのブラック党

砂糖もミルクもなしで、二人はコーヒーをすすった

「何? 何なの? 金? それとも仕事関係?」

「うん… やっぱり言うしかないか…」

「実の息子じゃん。言ってよ」
と郁男もじれてくる

「あのな、金を貸してほしいんだ」
とようやく父も腹を割った

「ああ、いいよ。いくらなの?」
と郁男

「うん… 600万」

これまで金の無心など全くしたことがない父が、いきなりの600万

これはよほどの事情と察する

「いやいやいや、いいんだけど、何に使うの?」
と郁男は600万の背景を心配した

父は苦笑い

そして
「言うのか?」
と郁男の顔を見る

すると郁男は
「言ってほしいね。だって父さん、金に興味ないだろう。何でそんなに金が要るの?」
と問い詰めにかかった

「言わないと貸さないか?」
と父

「金はどうだっていいんだよ。父さんをそこまで追い詰めた事情を知りたいんだ」

「そうだよな…」
と父は浮かない顔をする

よほど言いたくないのか…

「解った、解った、貸すよ。てか、返さなくていいよ。でも借金の根源、金輪際手を切ってくれよ」
と郁男は父の心中を察し、こう言った

すると父は
「まあな… でも手は切れないんだよ」
と言うのだ

「手は切れないって、どういうこと?」

「佐代子だ。佐代子が借金したんだ」
とここで父は真実を話した

佐代子とは10歳離れた腹違いの妹だ

「佐代子って、俺より10歳下だから21だよね?」
と郁男が言う

「そうだな。何を間違ったのか、俺にも解らない…」
と父

すると郁男は
「解った、金は貸す。でも俺も佐代子に一言いいたい。言っちゃダメかな?」
と言う

「うん… お前が金を貸すんだから、一言くらいいいんじゃないのか…」

「よし、行こう。俺がガツンと言ってやるから」
と郁男は息をまいた

「今から行くのか?」
と父

すると郁男は立ち上がり、キッチンに行って食器棚の引き出しを開ける

振り返った郁男の手には、万札の束が六つ

そして
「はぁ… こんなことで家族の役に立つとは…」
と本音を漏らした

二人はマンションを出て、郁男の車で実家に向かう

実家までは車で20分程度だ

程なく郁男たちは実家に到着した

二人は車から降りて、家の中に入る

すると義理の母が
「お帰りなさい。あら、郁男さん、お久しぶりです」
と言う

郁男も
「こんにちは、お久しぶりですね」
と挨拶をした

郁男は、この義理の母親に対して他人行儀だった

それもそのはず

父と義理の母親が再婚したのは郁男が大学生の時で、一緒に過ごした時間も短く、他人としか思えないのだ

そして父が
「入りなさい」
と言い、郁男も家に入った

以前から古びた家だったが、久々に来てみると、より古びたように感じる

しかし居間にあるこたつに入ると、古びたというよりは懐かしさがこみ上げてきた

「佐代子は?」
と父が義理の母に言う

「いるけど… あなた、そのことで郁男さんと?」
と義理の母は驚いた様子だった

「ああ、考えに考えた結果だ。佐代子を呼んでくれないか」

「はい、解りました」
と義理の母は言うと、佐代子を呼びに行った

数分後、母が佐代子を連れて来る

「お、お兄さん…」
と佐代子

21歳になった佐代子は、以前とは見違えるほどだった

郁男が前に佐代子に会ったのは5年前、高校入学のお祝いの時

まだあどけない少女という感じだったのに、今ではすっかり大人だ

部屋着のジャージ姿だが、胸もふくらみ、尻も丸みをおびていた

「佐代子、座りなさい」
と父

すると佐代子も母もこたつに入る

佐代子にも何の話か察しがつくため、佐代子の方はしぶしぶといった感じだ

すると郁男は革ジャンの内ポケットから600万を取り出し、こたつの上にドーンと置く

そして
「佐代ちゃん、これで借金を全額返して」
と郁男が言った

「えっ、お父さん、全部言ったの?」
と佐代子

佐代子は、郁男の会社に就職させるのが目的だろうと思っていたのだ

「仕方ないだろう、こういう状況なんだから…」
と父が言う

「いいわよ、要らないわよ、こんなお金…」

「要らないとは何だ! 忙しいのに郁男もこうやって来てくれたんだぞ」
と父

「だから、要らないって。自分で働いて返すから」
と佐代子もむきになってきた

すると郁男が
「佐代ちゃん、借金が自分の年収を上回ったら、あとは雪だるま式に増えていくだけなんだよ」
と言う

佐代子はこれにもむきになり
「だから? だから何?」
と抵抗

「だから、僕が借金の分を立て替えるから、まじめにやり直して」
と郁男は言う

「だからもううるさいって。自分できちんとやるから」


[次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!