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魔法少女リリカルなのはA'S-F〜大空の炎と夜天の翼〜
第八話「星光、墜つ」


(なのは!?)

(なのは、大丈夫なのかい?)

「…………」

心配そうに、なのはを見下ろす、ユーノ、アルフ、フェイト。

(大丈夫!スターライトブレイカーで撃ち抜くから!)

誰の目にも、なのはが大丈夫でないのは明らかだ。レイジングハートに至っては、集束砲なんて大魔法を処理できる状態ではない。

「……結界は彼女に任せよう」

と、ツナは直ぐにヴィータに向き直る。

「ちょっ、ツナさん?少し、冷たいんじゃ……!?」

少しムッとするユーノに、ツナは言葉を続ける。

「俺達が止めても、なのはは撃つだろう。なら俺達がヤツらの撃退と結界からの脱出に集中した方が、なのはの負担も減る」

本当はツナも、なのはの無茶な行為を止めてやりたい。

けど今、すべきことは、心配することじゃない。各々の役割を果たす事。それが、なのはの為になる。

ツナの気持ちが解ったユーノは頷き、ツナの言葉を念話でフェイトとアルフにも伝える。
フェイトとアルフも頷き、各々目の前の相手に集中する。

「言うようになったじゃねーか、ツナ」

「あの泣き虫が、まぁ立派になったもんだ」

と、なのはの横に、いつの間にか転移してきていたクリムとリボーンがツナを見上げていた。

「リボーンくん!?と……どちら様ですか?」

「ああ、俺はクリム・フィアンマ。お前らやツナの味方だから、安心しな」

クリムはにっと笑ってウインクする。

「お前があの『PT事件』の功労者っつー……」

「あ、はい、高町なのはです」

「よろしくな。さて……俺は本調子じゃないから、ここでなのはの護衛をやるか。おい雲の、お前は……っていねぇ!?」

「ヒバリならあそこだぞ」

リボーンの指差す方を見ると、一緒に転移してきた雲雀は、雲ハリネズミの発生させた雲に乗り、まっすぐにザフィーラの元に向かっていた。

「だーっ!どこまでスタンドプレーが好きなんだアイツはぁっ!」

「しかたねぇぞ。“何者にも束縛されない、孤高の浮き雲”が、雲の守護者の役割だからな」

クリムも元はCEDEFの人間。ボンゴレの守護者の役割について多少は知ってはいたものの、あの雲雀恭弥を守護者にしといていいのかと、本気で悩む。

「なのは、何か魔法を撃つつもりだったんなら、さっさと撃っちまえ」

「ふえ?あの……でも……」

なのははチラッと、飛び出していった雲雀を見る。

「ヒバリなら心配すんな。アイツはツナより強えし、一人でも何とかする。他人と群れるのが大嫌いなヤツだからな」

ツナの戦闘能力の高さは、なのはもよく知っている。そのツナ以上に強い人なら、多分大丈夫だろうと、なのはは気を取り直し、レイジングハートを構える。

「レイジングハート、カウントを!」

《Count-nine……eight……seven……》

なのはの眼前に、大規模な魔法陣が展開。その陣の中心に、魔力が集束していく。

「おいおい……9歳でこれだけの集束砲を撃てんのかよ……」

なのはの力を間近で見て、クリムは戦慄を覚えつつも、付近の気配、魔力を探り続ける。

魔力の集束に気付いたシグナムとヴィータが、なのはの妨害に向かおうとするが、シグナムの前にはフェイトが、ヴィータの前にはツナとユーノが。
そして、アルフを振り切ろうとしていたザフィーラの前には、雲雀が立ち塞がった。

「貴様は……!」

「さぁ……今度こそ咬み殺してあげる」




少し離れたビルの屋上から、若草色の僧侶服に身を包んだ金髪の女性、ヴォルケンリッター参謀・湖の騎士・シャマルは戦況を見守りながら、指輪型デバイス『クラールヴィント』の通信モードをONにする。

戦闘中に不謹慎と思われるかもしれないが、これも後方を預かる彼女の大切な役目。

家で独り、騎士達の帰りを待っているであろう、まだ年端もゆかぬ少女である主を安心させる為。

『もしもし?』

「あ、もしもしはやてちゃん?シャマルです」

努めて、いつもの声色でシャマルは話す。自分達が危険の中にいる事を、悟られない様に。

『どないしたん?』

「すいません、いつものオリーブオイルが見付からなくて……ちょっと遠くのスーパーまで行って探してきますから」

『ああ、別にええよ、無理せんでも』

主の優しい心づかいが、今は苦しい。
買い物など、とうに終わっている。いつものオリーブオイルも、買い物袋の中にある。

それでも、その苦しさを飲み込み、シャマルは続ける。

「……出たついでに、みんなを拾って帰りますから」

『そーか』

「お料理……お手伝いできませんで……すいません」

電話に出ながら、独り夕飯の準備をしているであろう主の気持ちを考えると、シャマルは詫びずにはいられない。

『あはっ、平気やって』

「なるべく、急いで帰りますから」

『あ、急がんでええから。気ぃ付けてな』

「はい、それじゃあ……」

通信を切り、シャマルは表情を引き締める。八神家のシャマルから、ヴォルケンリッターの湖の騎士・シャマルへ、気持ちを切り替える。

「そう……なるべく急いで、確実に済ませます……!」

主、はやてちゃんの為は勿論だけど、ヴィータちゃんとザフィーラの相手をしている、橙と紫の炎を使う二人の男の子達、かなり強い。下手をしたら、あの二人でも……。

だから、速やかに己の役割を済ます。私達の目的は、相手をただ打ち倒す事じゃないんだから。

「クラールヴィント、導いてね」

《ja.ペンデュラムフォーム》

シャマルの人指し指と薬指に填められた指輪の藍と翠のクリスタルが輝き、指輪から分離する。

離れたクリスタルと指輪を、魔力で編まれたワイヤーが結び、振り子――ペンデュラムの様な形態に変化した。

狙うは……一人。




《five……four……three……すリー……スりー……》

レイジングハートのカウントに乱れが生じる。やはり損傷は、コア部分にまで生じている。

「レイジングハート……大丈夫?」

《大丈夫です》
見え見えの虚勢。だが、主が傷ついた体に鞭打ち、仲間の窮地を救おうとしているのに、何故自分が沈黙していられようか?

主、なのはによく似た生真面目で頑固者のデバイスは、カウントを再開する。

《Count,three……two……one……》

魔法の完成を確信し、なのははレイジングハートを構える。

フェイトも、ユーノも、アルフも。
ツナも、側で護衛をするクリムと見守るリボーンも、それは同じだった。


「っ!?」


なのはの胸を、湖の騎士の手が貫くまでは。


「あ……ああ……」

雲雀以外の全員が、その光景に目を見開く。

「!?」

「なの……は?」

ツナも振り下ろす拳を止め、フェイトも震える声で友達の名を呼ぶ。
出血はない。肉体的な攻撃でない事は解るが、それでも二人を揺らすには十分だった。




「しまった……外しちゃった……!」

シャマルは、クラールヴィントのワイヤーが紡ぐ、空間を超越する扉、『旅の鏡』に再び手を入れる。




「あぅっ!!」

なのはの胸を再度、シャマルの手が貫き、桜色に輝く何かが姿を表す。

それはリンカーコア。魔導師の魔力の源、生命に等しい存在だ。

「なのはぁ―ー!!」

なのはを救おうと、彼女の元に行こうとするフェイトを、シグナムが阻む。




「これは……湖の騎士の仕業か!?」

後方支援専門の湖の騎士の魔法とクリムは確信するが、肝心の術士の姿が見えない。

「っのぉ……出てきやがれぇっ!!」

「落ち着け、クリム」

「だかよ、リボーン!」

「ツナがこれのカラクリに気付いたみてぇだぞ」

リボーンの視線の先、上空のツナが、市街地の一点を見据えていた。




ツナの超直感が、『闇の書』の波動を感知する。

シグナム、ヴィータ、ザフィーラからは波動を感じない。
仮に、ヤツらの狙いがなのはの魔力なら……それを吸収するあの書は……なのはの胸を貫いた、ヤツらの仲間が持っている。

「っ!させっかよ!」

ツナがシャマルの存在に感付いたのに気付いたヴィータは、ラケーテンフォームのアイゼンを振りかぶり、ツナとの間合いを詰める。

「……邪魔だ」

ツナは左グローブの炎を、“柔”から“剛”に変換。ヴィータを本気で殴り飛ばした。

「うぁぁぁっ!!」

心は痛むが、事態は一刻を争う。この距離から、あの書となのはを貫く術士を撃つには……あれしかない。

ツナはポケットから小さなケースを取り出す。
中身は、X BURNER用のコンタクトディスプレイ。
X BURNERを全力で撃つ為の炎の制御をサポートしてくれる、ミルフィオーレファミリーの技師、スパナの作ったアイテムだ。

ツナは速やかにコンタクトを装着し、発射シークエンス開始のキーワードを呟く。

「“オペレーションX(イクス)”」

ディスプレイに、左右グローブの炎の出力ゲージが映し出されたのを確認し、ツナは左手の“柔”の炎の出力を上げていく。

《レフトバーナー、柔ノ炎、10万……18万……20万FV(フィアンマボルテージ)》

柔の炎の安定を確認。次は右グローブのグローブクリスタルに、“剛”の炎を充填する。

《ライトバーナー、剛ノ炎、グローブクリスタル二充填開始。10万……18万……20万FV。ゲージシンメトリー》

両炎のバランスを示すラインが、『X』を描く。準備は完了だ。

出力はミルフィオーレ・メローネ基地の二区画を消滅させた時と同等。これなら、届く。

「X BURNER AIR!」

“剛”の炎を解放。凄まじい高密度エネルギーと化した大空の炎が、今まさに、なのはのリンカーコアを蒐集しようとしているシャマルに向かって放たれた。

その凄まじい力に、シグナム、フェイト、ザフィーラ、雲雀すら動きを止める。
しかし、その狙いがシャマルと気付いたシグナムは、彼女に警告を飛ばした。

(シャマル、蒐集を中止して避けろっ!!)

「え!?」

シャマルが気が付いた時には、橙の炎の奔流は、彼女の眼前に迫っていた。
旅の鏡を解除して、防御に回る時間が……ない!

「シャマル――っ!!」

ヴィータが叫ぶ中、シャマルは炎に飲み込まれる……筈だった。

「何…!?」

ツナは目を見開く。突如シャマルの前に現れた女性が、雷の、翠の炎を帯びた自身の髪の毛で、X BURNERを防いだのだ。

「っ!!」

完全には耐えきれず、腰まで伸びたエメラルドグリーンの髪は燃え、肩までの長さになってしまったが、女性はX BURNERをしのぎきった。

「ふぅ……ボンゴレ]世のX BURNER……噂以上の威力ね」

「あなたは……?」

「今の内に蒐集を済ませてしまいなさい、湖の騎士」

急に現れ、自分を助けるこの女性、怪しくはあるが、今は蒐集が先。
シャマルは再び、なのはのリンカーコアに集中する。

「させるか……!」

ツナは剛の炎で女性に急接近し、拳を振るう。
しかし、その一撃は、女性の操る雷の炎を纏う布に阻まれた。

「すいませんが邪魔はさせません。闇の書の完成は、私達のボスの望みでもありますから」

「何者だ、お前は……?」

「雷の“始炎”、エレナ・ラザフォードと申します。以後お見知りおきを、ボンゴレ]世」




「リンカーコア、捕獲……!闇の書、蒐集開始!」

闇の書に手を添え、シャマルが命じる。

《蒐集》

闇の書に、なのはの魔力が吸い込まれていく。一ページ、二ページと、白紙のページがみるみるうちに埋まってゆく。
そしてその度に、なのはのリンカーコアがどんどん小さく、輝きも消えてゆく。

しかしなのはは、蒐集されながらも、レイジングハートを振り上げる。スターライトブレイカーを撃つまでは、倒れられない。

《Count,zero》

「スターライト…………ブレイカーッ!!」

レイジングハートが魔法陣を打つと、桜色の集束砲が夜天に放たれ、封鎖結界を砕く。

そしてなのははレイジングハートを取り落とし、力尽きる様にその場に倒れた。






to be continued…………



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