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「俺、五時から会議なんだよな」


ふと、汐見先生は口を開いた。


「お前は家政夫の仕事があるから待ってられねェだろ?これじゃ補修になんねえよ」

「………あー、確かに」


頼みの綱は生徒会メンバーだが、彼らにきくのは申し訳ない気がする。だってこの問題は公立の高一レベルだ。先生いわく、誠清では中二〜中三時の内容だったらしい。さすがに無理。


「俺は明日も用事があるんだよなー。申請書作る予定があんだよ」


じゃあどうするべきなのか。めんどくさそうに唇を尖らせた汐見先生は、ふと廊下に視線を移した。つられるように振り向くと、そこにいたのはボサボサ頭に分厚い眼鏡のクラスメイト、合歓肇だ。合歓はおれと先生とを交互に見て、納得したように頷いている。…どういう解釈をしてるんだろう。

荷物を取りに来たらしく、彼は手ぶらで教室に入ってきた。そうか、あれ合歓の荷物だったのか。なんてぼんやり考えていると、向かい側にいた先生が立ち上がって言う。


「おい、合歓。今ヒマか?」

「…………いえ、帰るところなんで」

「わかったヒマだな。ちょっとこっちこい、おれの変わりに先生やれや」

「…………はあ」


言葉の前にえらく間がある人だ。しかも合歓が話しているのをきいたのははじめてで、なんとなくわくわくする。うーん、彼は体格からして攻めかな。いやでも受けもアリかも。デカイ奴を組み伏せる図っていいよな見たいな……。

なんて思考をトリップさせていたから、いつのまにか先生がいなくなったことに気づかなかった。入れ替わりに合歓がおれの真向かいのイスに座る。

本当に教えてくれるのか?とびくびくして彼を見ていると、一瞬だけ目があった。あれ…実はけっこうつり目ぎみ?やっぱイケメンじゃないかな。

そんな合歓は無表情で参考書を見る。


「…………どこがわかんないの」

「えーっと。……ゼンブ?」


ため息がきこえたのは、まあ仕方ないことだと思う、って他人事みたいだな。自分のことなのに。ごく小声で「お世話になります」と言ってみた。


「………じゃ、まずはここから――」


なんだかんだいいつつも合歓の教えかたは上手かったし、数学がダメなおれのために根気強く粘ってくれたと思う。なんだ、優しいんだな。そう思った。

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