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ハジメテの、21
 桃山先輩の手には分けられたお菓子がたくさん。味見といって俺が作ったパウンドケーキをつまんだ時に、結婚して!と叫んで白井先輩に頭を叩かれていたのは数分前の出来事だ。

 …桃山先輩は自分の欲求に正直に生きているんだろうな。この人が“孤高の天使”だっていうのはなかなか信じがたい。ちょっと失礼だけど。


「じゃあボク巡回に戻るね。ユキくん、涼二くん、愛樹くん、ゼンくん、みんなありがとっ」


 語尾にハートがつきそうな勢いで言った桃山先輩はさっさと歩き出す。

 白井先輩は苦笑いしながら俺たちに香澄がごめん、と謝った。


「悪い奴じゃないんだけど天真爛漫でね。まあ仲良くしてやって。…じゃあ僕も行くよ。あ、それとゼン」


 白井先輩は去り際に俺を呼び寄せて、耳元で囁いた。


「また夜にね。……待ってるから」


 吐息まじりのその言葉にびくりとしながら、俺は頷いた。


「………はい」

「ふふ。じゃあね」


 今度こそ去った白井先輩の背中をぼんやり見ていると、ユキくんが俺に問いかけてくる。


「ぜ、ゼンくん。白井先輩となんていつ仲良くなったの?」

「へ?…成り行き、かな」


 流石に本当のことは言えないから言わないでおく。するとユキくんはちょっと不満そうにしながらも追求はしなかった。

 俺はそこで白井先輩についての話は終わったんだろうと区切りをつけて、みんなに尋ねる。


「そろそろ料理もなくなってきたし、お開きにしない?」

「えー、もう?まだいいんじゃねえ?」

「とか言ってけっこう時間たってるよ。というかマナは寝てないんだから。帰ったら一回仮眠しなよ」

「!いいのか!?」

「よくよく考えたら寝不足で体壊されても困るし。片付けはやっといてあげるから、夜に備えて寝なよ」

「う…、」


 夜に備えて、という言葉に呻く愛樹くん。

 さっきも同じようなことがあったな、と思いながら、俺はくすりと笑った。

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