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ハジメテの、7
「一年か……」


 長いようで短かった。だから百年なんてあっという間だろう。この一年は、天使を守るために走り回っていた気がする。

 天使達を守るために俺が作ったのは“白天使”という架空のキャラクターだった。何故白天使かと言うと、俺が白天使を演じるときの格好が白いからだ。真っ白な服とマスク。俺はそれを身につけて、ピアスを外した状態で白天使になっている。

 そういえば、白天使の時に魔宮と会ったことはなかった。白井先輩曰わく「飛びついてくるかも」ということだったが、実際は関わりはなかった。確かにあいつなら嬉々として飛びついてきそうなのに何故だろうか。少しだけ不思議に思った。

 時々、こんなふうに魔宮のことを考えてしまう。嫌いな奴の為に思考をするのは馬鹿馬鹿しいことだと我ながら思うが、ふとした瞬間――特にルビーを見た時、彼を思い出すのだ。

 何よりも美しいルビーレッド。王者らしいその気高さに、初めて見た時は捕らわれかけたのを覚えている。

 思わず、隣接している紅玉寮に視線をうつした。その壁には、夜でも光るルビーが埋められていて――。


「……あれ?」


 紅玉寮の屋根の上に誰かが立っている。長身で、夜に混じる黒髪を持つ男。


 ――まみや。


 俺の声が届くはずないのに、そいつは振り向いた。

 離れているのに魔宮が驚いているのがわかる。それはそうだろう、こんな時間にこんなところにいるのはなかなかない。俺も驚いた。

 あいつを見れば眉をしかめるくらいする俺だが、今日は珍しく何の表情も浮かんでこなかった。夜の感傷に浸っているんだろうか。

 そして魔宮は風の魔法を使い、俺の傍らまでやってきた。


「――よお。聖宮」

「…うん」


 馴れ馴れしく俺に接するくせに、魔宮は俺を聖宮と呼ぶ。だから敬称なしで俺の名前を呼ぶのは白井先輩くらいだ。

 そういえば、魔宮は以前食堂で白井先輩に「こいつは俺のものだから手を出すな」発言をかましていた。白井先輩のものになったと言うわけではないが、魔宮と白井先輩、距離が近いのはどっちかときかれたら即座に白井先輩と答えるだろう。

 それはそうと、俺は白井先輩に抱かれる約束をしたのだから、魔宮からは白井先輩のものになったように見えるのだろうか。

 ――この日の俺はおかしかったんだと今でも思う。何故ならば、俺は魔宮に問うたのだ。


「あのさ、魔宮」

「なんだ?」

「例えば俺が白井先輩に抱かれることになったりしたら。…なにかする?」


 たっぷり数拍後、魔宮は俺を睨み付けた。

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