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非日常のはじまり20
「お前。聖力は最悪だけど、声も色気もイイな」

「…離せよ」

「離すわけねぇだろ?…美味かったら聖力だけにしてやろうかと思ってたけど辞めだ。お前を犯す」


 ぎらついた瞳が俺を見据えている。やばいやばいやばい。俺は危機感に震えた。

 魔法を使ってけちらそうにも、聖力を吸引された後の不安定な状態では力の制御がうまくいかず、使えそうにない。どうすればいい?どうすれば…。

 山瀬は教卓でだるそうにしている男たちに言った。


「そーいうことだから、お前ら縄出せ。縛る」

「は!?縛…!?」

「へい、わかりやした」


 ……え、こいつらもしかして双子?

 そう問いたくなるくらいぴったりに言葉を返した男たちは教室の隅の自らのバッグをあさり始めた。

 俺は顔が引きつるのを感じる。


「山瀬…本気か?」

「まだ言ってんのかよ。いい加減現実見ろよ、こンの馬鹿。…つうかさ、眼鏡取っていい?」

「!無理無理無理、」


 すると山瀬はにんまりと笑った。


「お前本当に馬鹿だなァ。嫌がったら俺が喜ぶことにいい加減気付けよ」

「いや嫌がらなくてもお前は眼鏡とろうとするだろ」

「正解。…さあって、どんな醜いカオしてんのかなァ?」


 初めて向けられた山瀬からの笑みは酷く歪んだもので、俺は更に顔がひきつる。 

 だから、とっさに後ろ手に机を押し、腰を浮かす要領で両足で山瀬を蹴りつけたのは、条件反射だ。


「!?てめっ…」


 よけようとのけぞった末に山瀬はバランスをくずし、机を巻き込んでしりもちをついた。奴は痛そうに声を漏らすが、もちろんかまっていられない。山瀬の足の間に着地し、起きあがれないように腹を蹴りつけた。


「ぐっ…!」


 むせかえった山瀬はそのままに、俺は屈強な双子がいるのとは反対側のドア、つまり教室の後ろのドアに飛びついた。


「、はやしっ、もり!、」


 あ、苗字違うから双子じゃないんだ。

 山瀬の怒鳴り声にそんなことを考えられるくらい落ち着いた俺は、必死の形相をして俺のもとに走る林と森にむかって中指を立てた。


「サヨウナラ」 


 できれば一生会いたくない。

 我ながら凄味のある笑みを浮かべたのち、俺は教室を走り去ったのだった。

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あきゅろす。
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