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君を追い掛ける30
 次の日、あのまま部屋に放置してしまった諸星くんに平謝りしたり(「別にいいよ気にすんな」だって。うわあ優しい)、心配して泣きそうになってるユキくんを慰めたり、ユキくんを慰めるために涙声になる愛樹君を愛おしそうに見つめる涼二くんに苦笑いしたりしながら、一日が始まった。…朝からちょっぴり大変だったかも。

 昨日の今日だから親衛隊からなにかされるんじゃないか、とみんなは当事者の俺よりも不安がっている。いや、俺は楽観的思考なんじゃなくて仁科先輩のうろたえぶりをみてしばらく何もないだろうと踏んでいるわけで。「親衛隊はそんなに甘くないよ!」と言うユキくんには悪いんだけど、ちょっと保留させてもらいたい。

 魔宮が現れた瞬間の仁科先輩はすごく驚いていた。今までは制裁を黙認、正しくは放任していたというから尚更なんだろう。魔宮が現場に乗り込んできたのははじめてだったらしい。それが学園中に伝わったせいで風当たりが強くなったというのは余談だ。

 なんにせよ、それからの日々は問題なく進んだ。授業受けて、白天使になって、寝て、時々…抱かれて、演習して、授業受けて。サイクル化された日々はなかなか楽かもしれない。ただ一つ変わったのは、前にもましてルイが俺にべったりするようになったこと。「今度は守る」と真面目かつ真剣な口調で言われて面食らったり。でも休み時間毎にクラスに来るのはやめてほしいな、周りがうるさいうえにルイにも悪い。自分の時間がなくなっちゃうからね。

 そのまま緩やかに時は過ぎ、あっという間に四年がたった。親衛隊からの制裁も日常の記憶に埋もれてしまった時、それは起きたのだった。



 * * * * * *



「遅いな、ユキくん。三十分もたってるのに」


 室内の壁時計を見て、俺はため息をついた。飲み物を買いに行くと出て行ったきり、ユキくんは帰ってこない。しかももう番組が始まってしまった。二人で一緒に観ようと約束した、聖獣についての特別番組が。


(…さすがに遅すぎる…)


 誰かと話し込んでいるのかもしれないと思ったが、かぶりをふった。いくらなんでも番組の始まりまでには戻ってくるだろう。ユキくんはテレビ欄に線まで引いてこの番組を楽しみにしていたから、それはない。ということは。

 …微かに嫌な予感がした。俺は慌てて部屋の外にでる。その瞬間、足元で何かをふんずけた。何だろうと見下ろし、目を見開く。

 そこにあったのはピンク色の封筒。ハートのシールが張られた可愛らしいもの。今回は宛名が「聖宮善へ」になっている、これは。

 ――親衛隊からの手紙。

 封を切る俺の手は、たぶん微かに震えていた。現れた便せんにさっと目を通す。


『原ユキは預かった。返して欲しければ体育倉庫Bまで来ること。…来なければどうなるか、わかるよね? 仁科実華』


 相変わらず丸っこい字で書かれたその言葉に、背筋が冷えた。特徴的な話し方がなりをひそめていることが怖い。ただ差出人が一人であることに少し違和感を感じたが、構っていられなかった。現状としてユキくんが危険なことはかわりないから。

 封筒を握りしめて走り出す。目指すはもちろん体育倉庫Bだ。

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