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非日常のはじまり1
「ここが聖宮君の部屋だ」


 あれから、やっとのことで思考を回復させた俺は(諦めの境地に入ったともいう)、空峰さんの案内により寮の自室までやってきていた。すれ違う生徒達はここが蒼玉寮だということもあって、天使ばかりだ。天使と悪魔が互いの寮を行き来するといっても、そうあることではないのかもしれない。

 思考をする俺をよそに、空峰さんはポケットから青色のカードを取り出して俺に見せてきた。カードの右端にサファイアがうめこまれている。どうやらこのカードは天使用らしい。悪魔のカードはサファイアがルビーになるんだろうな。


「これがカードキーだ。先程説明した通り、これは部屋を開けるだけでなく買い物や食事の支払いにも使われる。つまりクレジットカードだと思ってくれ。なくしたらすぐ私に言うように。カードの使用ロックをかけて使えなくさせ、悪用を防ぐことができる。…話はこれで全部だ。わかったか?」

「はい、わかりました。今日はありがとうございました」

「いや、これも仕事のうちだ。構わない。……それよりも、魔宮のことだが」


 俺はその名前を出されて、露骨に顔を歪めていたらしい。空峰さんは苦笑いを浮かべた。


「空峰さんに言われたからでなく、自主的に関わらないようにしますから。…あいつにはついていけません」

「そうしてくれ。しかし彼は将来の魔王だからな。結局は関わる必要もでてくるだろうが、今はまだ時期ではないだろう」

「ええ…」


 げっそりした俺に、空峰さんは苦笑では足らずに吹き出した。


「わ、笑わないでくださいよ!」

「すまん。あまりにも聖宮君が面白くて」


 そう言って微笑んだ彼の表情にドキリとした。出会ったばかりの俺に向けるには過剰すぎる慈しみの気持ちが感じられたから。

 俺は焦って、空峰さんの手から半ばカードをひったくった。そして、


「今日は本当にお世話になりました。ありがとうございました!」


 そう言い捨てて、自室に入った。

 だから俺の背中を見つめる空峰さんが「彼が将来の大天使か……」とつぶやいていたことなんて、知らなかった。

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