捧げもの
シャンプー 小蜜丸様へ1827
「……失礼します」
「わお。綱吉、どうしたの?その格好」
休日にも関わらず雲雀さんから3分以内に応接室に来るよう呼び出しを受けた俺は、普段なら雨宿りをするであろう突然の雨をまるで無視してここまでやって来た
そのため全身が程よいという表現を通り越した、些か酷い濡れようだ
特に髪といったら普段からさして気を使っている訳ではないが、このように水に濡れるとそれはもう見るも無惨な事になる。水分により普段の1・5倍は有るであろう自分の髪を俺はただ恨む事しか出来なかった
「とりあえず座って。着替えとタオル用意するから」
俺の髪の事には少しも触れず、雲雀さんはびしょ濡れの俺をいつものように応接室に招いてくれた
そもそも俺がこんな事になったのは突き詰めていけば雲雀さんに言い渡された「3分以内」という鉄のルールを守ろうとした為だったのだが、今となってはそんな事はどうでもよかった
ただ、目の前にいるドライヤーという到底学校には常備されていないであろう代物をいとも簡単に応接室に持って来させる並盛の王様を見ていたかった−−−−
「綱吉、ほら」
「へ?」
「髪、乾かさないと風邪引くでしょ?」
当たり前のように右手にドライヤー、左手にタオルを持った雲雀さんが言う
しかも彼が来いと指定する場所はソファーではなく自分の膝の上だ
瞬時に顔が火を噴いた
何故俺がそのような状態に陥っているのかなど、この王様には分かるはずもないだろう。「早く」と睨まれた為仕方なくちょこんと座った俺の髪を雲雀さんは当然のように乾かし始めた
フワンと漂うシャンプーの香りに気分を害さないだろうかと初めはビクビクしていたものの、次第にそのプロの美容師並みの優しい手つきに恐怖心は溶けていった
普段より近い雲雀さんとの距離
普段より近い雲雀さんの声
普段より近い雲雀さんの吐息
全部が今だけは俺のもの
並盛の王様は今だけは俺の王子様
これからどしゃ降りの日は傘をささずに応接室に来よう……。密かにそう決めた俺に、無情にも「はい終わったよ」と幸せな時間の終わりを告げる雲雀さんの声が響いた
もう王子様は王様になってしまうのか
もっと雲雀さんによしよしと頭を撫でられていたかった
もっと雲雀さんの膝の上に座っていたかった
と、淡い後悔が生まれた刹那
王様は−−−雲雀さんはきゅっと後ろから抱きしめてくれ、そっと「今から校庭に行こうと思うんだけど、あいにく傘がないんだ。濡れたら……どうしよう?」と魔法の言葉を紡いだ
「俺、普段ドライヤー使わないんで雲雀さんなんかより全然下手ですけど……いいですか?」
「ふふ……構わないよ」
そう言って良くできましたとばかりに俺の髪を撫でてくれる貴方は
もうずっと、俺だけの王子様
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