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捧げもの
僕の黒

「…………むう……」


HRの終わりを告げる担任の声と同時に応接室に直行した俺の目に入って来たモノは、草壁さんの見事なリーゼントだった


「あの、雲雀さんは……」
「恭さ……委員長は今日も風紀の見回りで……」


それから後の言葉は耳から入っては出ていく事を繰り返すだけだった

この頃雲雀さんが逢ってくれない

この一週間ずっと顔を合わせているのは副委員長の草壁さんだけで、当の委員長はいつも留守だった

「雲雀さん…………」

何か雲雀さんの気に障るような事をしただろうか。考えを巡らせても答えが見つからない。かといって本人に聞く事などかなわない訳で、俺は毎日応接室に通う事しか出来なかった


「どうぞ」

そういって机の上に草壁さんが今日もカチャリとお皿を置く

「いつも……すみません」

応接室に来る度に出される新作ケーキ
何故ここに並盛中のケーキが集まるのかは知らなかったが、甘党な俺からすれば飛び跳ねるほど嬉しい事だった

でも、どんなに甘くて美味しいケーキも一緒にたべる人がいないと味気ない

「今日は、帰りますね」

草壁さんに変に気を遣わせてしまうのも悪いと、俺はそそくさと立ち去る事にした。どうせ今日もいくら待っても雲雀さんは帰ってこないだろう

のろのろと校舎をあとにする−−こんな生活を一週間も続けているのだ



「もう……嫌いになっちゃったのかな、俺の事」

元々なんとなくだけど合わない気がしてはいた

ダメツナと呼ばれる自分が容姿端麗、並盛最恐の雲雀さんと付き合うなんて…………。口には出さなかったけれど、きっと雲雀さんも俺なんかと付き合っているなんて恥ずかしいのだろう
その証拠に現在雲雀さんと俺が付き合っているのを知っているのは副委員長の草壁さんだけだ

「次逢ったら……別れましょうって言おう」

きっと雲雀さんはその台詞を待ってるんだ。だから毎日毎日こんな……

悲しくて
寂しくて
鼻の奥がツンとする

「ひ、雲雀さんなんか……雲雀さんなんか好きにならなければ……よかった」

心にもない言葉が口をついた

「本当にそんな事思ってるの??」
「え……」


その瞬間、視界が黒に染まった

深くて
綺麗な
世界に一つだけの黒

雲雀さんの色だった

学ランの中にすっぽりと埋まった俺は今の状況をやっと理解出来た
そうか、今俺は雲雀さんに抱きしめられているんだ

でも何で?
雲雀さんは今日も風紀の見回りで毎日忙しくて、俺の事なんて嫌いなはずなのに

「全く、被害妄想もいいところだね」

頭上から聞き慣れた心地よい低音の声が降ってくる

「だって、雲雀さん毎日逢ってくれないし」
「僕だって毎日逢いたかったよ」
「ならどうして……」

続きを言い終わらないうちに俺は雲雀さんに口を塞がれてしまった

短い口付け

「いきなり何『今日は、ケーキ食べてないでしょ』
突然の問い掛けに拍子抜けしたものの、一応「はい」と答えると雲雀さんの溜め息が顔にかかった

「どうりで甘くない訳だ」
「う…………」

しばしの沈黙が2人の間を支配した後、雲雀さんが「公園、行こうか」と提案してきた


夕暮れに染まる道を2人でとことこと歩く

「ほら、行くよ」と強引に握られた手は今は優しく包み込まれるように繋がれている

公園のベンチの腰を下ろすと、唐突に雲雀さんが「君に、喜んで欲しかったんだ」ともらした

「え?」

頭の上にいくつもの疑問符が浮かぶ
カサカサという音がして俺のまえに白い箱が突き出された

「開けてみて」
そう促されてその言葉に従うと、中には見た目もすごく綺麗なケーキが入っていた

「あの、これ……」
「実は、毎日ケーキを買ってたんだ。君は甘いもの好きだから」
「じゃあ、あの応接室にあった新作ケーキの数々は……」
「ものすごい人気だから、並んで買ってたんだ」


「…………ぷっ」
「な、何で笑うの?」
「あはははっ!!だ……だって、雲雀さんが…ぷっ、ぎょう……行列に並ぶなんて」

想像しただけでも笑いがこみ上げてくる。それも新作ケーキの為になんて、他中の不良達に見られたら恰好のスクープだろう

それでも雲雀さんは買い続けてくれたのだ。俺の、ダメツナの為に

少しでも雲雀さんを疑った事に激しく後悔する
「で、君はどうしてあんな事言ったの?」
「あの、それは……」

言えない、雲雀さんの事疑ったなんて
それから、もっとかまって欲しいなんて

「言いたい事があるなら、我慢しない方がいいよ」

「う……じゃあ…………もっと…一緒にいて欲しい……です」
少しだけ、ワガママを言わせて欲しかった

でも、雲雀さんは「寂しい思いをさせてしまったみたいだね。だからあんな事言わせちゃったのか」と受け止めてくれた

「風紀の仕事で忙しいのは充分わかってるし、俺の為にケーキを買ってくれてたのはすごく嬉しいんです。でも、後少し。後少しだけ一緒の時間が作れたら……なんて、ワガママですよね」
思ってた事があとからあとから溢れ出る

「良かれと思ってやった事が裏目に出てしまったみたいだね」
そういって優しく抱きしめてくれた雲雀さんはいつもの何倍も
紳士で
でも強引で
甘い匂いがした


「雲雀さん−−!!」
「やあ、待ってたよ。綱吉」

あれから雲雀さんはいつも応接室で俺を待ってくれる


「ほら、あげる」
「??」

ぶっきらぼうに渡された並中の校章入りのメモ用紙には、綺麗な雲雀さんの字で「僕の券」と書かれていた


「あの、これは……」

「僕の券だよ。それで一回だけ君の言う事何でも聞いてあげる」

それは小さい子が両親に贈る肩たたき券のようなものだった
あまりにも幼い、いや素直な雲雀さんの考えに微笑んでしまう


「な、何か文句あるの??」
「いえ!!あの、じゃあ早速使ってもいいですか」
「あ、うん」












「とりあえず、俺とずっと一緒にいて下さい」


あきゅろす。
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