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捧げもの
喜ぶ事、教えます



草壁さんとの入念な打ち合わせののち、緊張した面もちで雲雀さんの帰りを待つ

しんとした室内にいるためか、自分の心臓の音がやけに響く
練習に練習を重ねた台詞を頭の中で繰り返す


「本当に雲雀さん、喜んでくれるよね……?」


ここに来て、急に自信が無くなってきた。素早く印を付けたページを見返す


「T、疲れた彼を精神誠意ねぎらいましょう」

思わず唾を飲んだ
もうすぐで彼−−−つまり雲雀さんが帰ってくる

雲雀さんは最近風紀の取り締まりが忙しいらしく、俺にでも分かるような疲れっぷりだ。そんな彼に少しでも元気になってもらおうと、俺が購入した本−−−その名も「彼のハートをガッチリキャッチ!!〜年上の彼編〜」かなり、それはもう買うのは恥ずかしかった。しかし、全ては雲雀さんの為と顔を赤らめながらも読みあさった



−−−そして今に至るという訳だ

草壁さんの協力のもと、俺は「雲雀さんねぎらい大作戦」を実施する事にしたのだ


カチャリ


ドアの開く音と共に雲雀さんが入って来た。こびり付いた血痕が生々しい。しかし、そんな事に屈する暇はない

脳裏に本に書いてあった内容が浮かぶ

「T、まずは心を込めてお帰りなさいと言いましょう。」


「お、お帰りなさいっ!!雲雀さん」
少しうわずってしまったが、まあ上出来だろう

雲雀さんは「ああ」と応えただけだけど


「T、いつも彼に頼りきりなあなた。たまにはいいところを見せて彼を安心させましょう」


疲れた様子でソファーに腰を沈める雲雀さん。ここからが勝負だ
何度も草壁さんに味見をしてもらったコーヒーを入れて差し出す

「どうぞ、コーヒーです。あの……し、失礼しますね??」

そう前置きしてからコーヒーを飲もうとする雲雀さんの頭を


ポンッと撫でた



「よ、よしよし……」

信じられないとでも言うようにぽかんと口を開けたままの雲雀さんの頭を撫でる。ツツーッとコーヒーが、傾いたカップからこぼれた


「熱っ」

反射的に俺を突き放す雲雀さん。これは想定外だ。急いで布巾を取りコーヒーの垂れた部分を拭き始めたはいいものの、お互いに無言になってしまった
黙ってゴシゴシと拭き続ける事しか出来ず、情けなさに涙がこぼれそうになる


こんなはずじゃなかった


雲雀さんをくつろがせてあげたかっただけなのに……。これじゃあ余計に気を遣わせてしまっている

「あの、雲雀さん……!!」

そう謝ろうとした時、俺の視界は雲雀さんで埋め尽くされた



いきなりのキスにボンッと顔が赤くなる
こんなの、こんなの反則だ

今日は俺が雲雀さんをメロメロにする番なのに−−−

「何に影響されたのかは知らないけど、綱吉はそのままで十分だよ。いつもの君が、僕の一番好きな君だから」

いつもは言わないような台詞をサラッと言って、綺麗に微笑む

もう、お手上げだ

きっと、俺と雲雀さんにはこの本は通用しないんだ。だって、俺と雲雀さんの仲は−−−本には書ききれないくらいの「好き」で、容量オーバーだから




「ふう」
綱吉が帰った応接室で、あの子の残した香りに包まれながら机の引き出しを開ける

「何でも思い通りになんて、いかないよね」

一瞬でも他人に力を借りようとした自分に腹を立てながら草壁に捨てておくように指示する−−−


コーヒーのシミがとれなかったYシャツと「彼のハートをガッチリキャッチ!!〜年下の彼編〜」と言う、無駄に印の多く付いた本を


 



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