◇続・武田家の忍の受難
*これの続き
上田城のある一角。
俺様ただいま塀の修理中。日々忍の仕事と言うのが分からなくなってきた。
思わずため息をつくと、隣で同じく作業中の名前ちゃんが不思議そうに声をかけてきた。
「どうかしましたか?」
「いや、何というか、いつも悪いなぁと思って」
「大丈夫ですよ、これが仕事ですから」
そう答える名前ちゃんの手際は俺から見ても手慣れたもので、改めて左官屋さんだなぁなんて思った。うん、やっぱり玄人に頼んでよかった。
「でもこんなに頻繁じゃ嫌にならない?」
「お金は十分頂いてるので、むしろまだ来いって感じですね」
「そういってもらうと助かるよ」
なにしろ殴り愛というのは毎日あって、その度に何かが壊れる。さすがに毎日呼ぶのは金銭的にきつくなってくるので、よほど大穴があかない限りは自分達で何とかする。それでも5日に1回は呼ぶからもはやお得意さんになっている。
「しかし、毎回すごいんですね。真田様とお館様の殴り愛と言うのは」
「うん」
「どれだけすごいか一度見てみたいものです」
「いやぁ見ない方がいいかも」
と、言ったところで、塀の向こうから二人の雄叫びが聞こえてきた。
「ん?」
「あちゃー始まったか」
「これですか」
「たぶんねー」
初めて見る(聞く)殴り愛にはしゃぐ名前ちゃんとは逆に、あぁ今日はどこが壊れるのだろうと俺様今からげんなり。
声の大きさと方向からしてそんなに遠くないだろう。
…心なしかだんだんと近くなってる気がするけど。
とりあえずこれを終わらせてからまた止めにいかないと。
止めるのが早かろうと遅かろうと、どうせ壊れるのは同じなんだし。
おやかたさまぁぁぁぁぁ!
ドゴォ
ゆきむらぁぁぁぁ!
ズッダァァァン
おやかたさばぁぁぁぁ!
バキィン
ゆきむるぁぁぁぁ!
ドガガガガガ
…………おかしいなぁ。確実に近くなってる。心なしか地響きまでしてるし。
おやかたざばぁぁぁぁぁぁぁ!
ゆきぶるああああぁぁぁぁぁ!
ガッ
「!!」
ヤバい
「名前ちゃん!」
「へ」
そう思ったとき、とっさに名前ちゃんの体に覆い被さる。
次の瞬間、俺らのすぐ隣で塀が大破した。
あああ考えたくないけど移動しながら殴り愛したな!被害が広範囲に及んでるよ絶対!今日は忍隊と、いやもう武田軍総動員で後片付けだな!!残業手当もらってもいいぐらいだよホント!
俺様が泣きそうになってる横で、ガラガラと音を立てて旦那が立ち上がる。
頼むからもう立ち上がるな。
これ以上、何かを壊すな。
「さ、さすがお館様…!!こ、この幸村……」
と、旦那の目が俺たちをとらえた。
「さ、さす、け……?」
あれ、そういえば今の体勢って、俺が名前ちゃんに覆い被さってる状態だよね。これってさ、端から見れば俺が名前ちゃん押し倒してるように見える?
ってことは
「ううう羨ま破廉恥でござらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
ガンガンと揺れる頭でも名前ちゃんの耳を押さえるのだけは忘れない。
今日の一番の被害は俺様の鼓膜かなー……なんて思った。
続・武田忍の苦労な日々
(名前殿ぉぉぉぉ貞操は無事にございますか!?)
(真田様、そ、そっちのほうが破廉恥です!)
(な、いや、そのっ、これは)
(とりあえず旦那、片付け手伝ってよ…俺様今世界が揺れて気持ち悪……)
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