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◆雨と君と(元就)



「毛利くん?」

玄関を出ようとすると壁にもたれ掛かっている毛利くんの姿が目にはいった。

「どうしたの?」と問いかければ彼は目だけをこちらにやってつまらなさそうに言った。

「天気雨が来そうなのでな、過ぎるまでここで待っておるだけだ」

「へぇ」

「貴様は傘があるだろう。早々に帰るがよい」

「うーん」

確かに、私の右手には傘があるのだけど、なんだかここで帰ってしまうのはもったいない気がした。

「ねぇ毛利くん。」

「何ぞ」

「私も一緒に待っていいかな」

「何故我に聞く」

「なんでも」


答えも聞かず、毛利くんから二人分離れたところにしゃがみこんで空を見上げる。
毛利くんは怪訝な顔をしたけど、何も言わずにまた上を向いた。


しばらくすると、ぽつぽつと雨が降り始めた。


「おぉ」

「………」


みるみる間に雨は勢いを増していく。

ぽつぽつ、ぽつぽつ。

ポッポッポッ、

サァァァァァァ


「あっという間に、本降りだ」


ザアザアと雨の音だけが聞こえる。静かな雨がひどく心地よく感じた。


ザアザア、ザアザア

絶え間なく、続く雨の音。
ポツリと毛利くんはつぶやいた。


「雨とは、憂鬱なものよ」


ちらりと横顔を見るとその表情はいつもより憂い気だ。


「毛利くんは太陽が好きだもんね」


彼の日輪崇拝は学校中で有名だ。彼にとって、晴れ以外の天気は日輪との会瀬を阻む邪魔者でしかないのだろう。


「でも時には雨じゃないと、水不足で困るよ」

「それはそうだが」

「それにさ」

「?」


「雨の後は虹が見えるよ」


そう言ったら、毛利くんはとてもびっくりした顔になった。
太陽ばかり見てる彼はもしかしたら、雨の後の楽しみを見たことがないのかもしれない。


「そう思ったらワクワクしない?」

「……虹にはしゃぐなど、子どもだけよ」

「あはは、じゃぁ子供でいいや」



いつの間にか、雨は止んでいた。
本の少しだけひんやりとした空気が心地よい。
別れる理由もなくて、なんとなく毛利くんと帰ることになったんだけど、毛利くんはずっと空を見上げたまま黙って歩いている。


「……ぬか」

「ん?」

不意に彼がつぶやいた。

「虹は、見えぬな」

「…うん、そうだね」

意外だった。毛利くんが虹なんか気にするなんて。さっきの話をちゃんと聞いているなんて。毛利くんは興味ない無意味な話はすぐに忘れる人だから。


「次は見えるかもよ」

「そうか」

「その時は一緒に見れるといいね」


返事は期待してなかったけれど、小さな小さな声で「そうだな」と毛利くんは笑った。



雨と君と






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