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◆雨に紛れて(元親)



バシャバシャと水溜まりが跳ねる中、ズボンの裾が濡れるのも構わずに走る。



「大丈夫か、名前!」
「なんとか!」


あぁ、今日は厄日だ。
せっかく気になる名前と一緒に帰れたというのに突然のゴリラ、いや、ゲリラ豪雨だ。
生憎傘なんかもってなくて、二人で雨の中を必死で走っている。


「あそこで雨宿りすっか?」

「うん」


そのうち見つけたバス停のところで雨宿りすることになった。
そんなに長く走った訳じゃないのに中までびしょびしょだ。


「すごい雨だねー」

「あぁ。お陰さまで服が重ぇ」

「あはは、私もー。カバン盾にしたけどあまり役に立たなかったね」

「だな。これじゃ傘あっても防げたかどう……」

言いながら名前の方に目をやったのを少し後悔した。
言葉を切って慌てて自分のカバンを漁る。名前が不思議そうにこっち見てるが、そんな場合じゃねぇ。
下の方にぐちゃぐちゃなったままのジャージを引っ張り出して急いで名前に被せた。


「ふぇ!」

「わ、わりぃ!汗くせぇかもしんねぇけど何か上着てろ!」

「いや、ちょっとびっくりして。それに風邪引かないから平気だよ?」

「いーから!」

不思議そうな顔のままとりあえず俺が貸したジャージを羽織る名前。つーか制服透けるの気づいてないのかコイツ?
ワイシャツがぺっとり張り付いてて、その、体のラインやら、し、下着の色っつかなんつーか………いやいや見ちゃダメだろ俺。


「長曽我部くんのおっきいねー」

「そ、そうか?」

男物の服が珍しいのか、名前は楽しそうに俺のジャージで遊ぶ。思ったより小せぇ。ジャージはすっげぇぶかぶかで余った袖からちょこりと覗くつま先が余計にかわいいみえた。


「雨、やまないね」

「あぁ」

「バス使う?」

「いや、通り雨みてぇだし大丈夫だろ」

「そっかぁ」

「………」

「………」


会話が途切れた。
ザアザアと雨の音だけがこだまする。


………き、気まずい。
なんか、なんか喋れ俺!
名前になんか言うことがあるだろ!なんでもいい、伊達とか前田が何したとか、昨日のテレビとか明日のテストとか……いや、今しか話せないことの方がいい。
どうせなら、今度海に行こうとか誘ってみようか。せっかくお近づきになれたんだ。これぐらい罰当たんねぇよな。よし、それだ。


「あ、あのさ!」

声を挙げれば名前が「ん?」と俺を見上げてきた。

ちくしょうかわいい


「俺、名前が好きだ!」


「え?」


「………え」



…………ええええ!?


何言ってんだ俺ぇぇぇぇぇ!!!!

ほらすっげぇ引いてるじゃねーか!!あぁなんだよこんなはずじゃなかったのに、まだまだまだ先の予定だったのに、今名前の中で俺変な人扱いになったよぜってぇ!


たまらず俺は雨の中に飛び出した。後ろから名前が何か言ったけど、雨音に掻き消されてもう聞こえねぇ。

ちくしょう、カッコ悪い。



雨に紛れて


(あれー名前じゃん、何してんのー?)
(雨宿りだよ前田くん)
(ん?着てるそれって元親の?)
(うん。さっき告白されたの)
(えぇぇ!?でどうすんのさ名前!)
(それがねー、さっきからドキドキがとまらなくて、どうしよう前田くん)



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