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アオソラ

 漫画クラブと言う、僕にとっては夢みたいな部に入っていた。
僕は、所属する女子の、圧倒的な多さに恐れながらも、数少ない同性の部員に、来る日も来る日も、一生懸命話しかけていた。
まるでこれが、自分にとっての、ラストチャンスだとでも言うかの様に。

「あっあのさ、黄昏交差点って漫画、知ってる?」
「たそがれぇ?知らねーよんな漫画。それよかファイトの話しようぜ」

同級生は、面白さ絶対主義の週刊少年ファイトが好きらしく、漫画と言ったらそれしか思いつかないらしい。
僕はファイトも読んでいたので、何とか会話をする事は出来たが、心のどこかで、無理をしている自分がいた。
僕がしたいのは、主人公の能力がカッケーとか、そんな話じゃない。迫力のストーリー構成とか、綿密に練られた伏線の話なのだ。
 その事を、当時割と仲が良かった同級生にした事があった。
彼は、僕の勧める漫画を好んで読んでくれていたからだ。
しかし、予想外に彼の反応は鈍く、僕は冷や水を浴びせられた様な思いがした。

「俺達さ、まだ小学生なんだし。漫画はスゲーでいいと思うんだ。それが嫌なら、もうそう言う奴を探すしかないんじゃねーかな」

ありがとう、この漫画面白かったよ。
何時もそう言うのと、何ら変わりがない言い方だった。
それからと言う物、クラブ中の男子から奇異な目で見られる事に耐えられなくなった僕は、逃げる様に部活を止めた。

 「……探すしか、ない、か」

小さく呟いて、あの時の言葉を反芻する。
今にして思えば、彼にとっての僕は、珍しい漫画を見せてくれる、便利な奴でしかなかったのだと思う。

ああ、ただ小学生を見ただけで、こんな古い記憶をごっそりと思い出してしまうとは。
あの後から、同じ趣味の人間を探す様な勇気もなかった僕は、何時か出会えればいいや、と暢気に考える事で自分の寂しさを紛らわす事にしてきたと言うのに。
未だに埋まることのない孤独感を消すべく、僕は漫画本を再び手に取った。

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あきゅろす。
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