アオソラ 5 次の日の朝。 僕はわざわざ青山が電車に乗るタイミングを見計らって、電車に乗り込む。 何時もの朝は、こんなに時間を気にした事はなかった。 同じ電車に乗れなくても、学校で会えると分かっていたからだ。 「あれ、いないのかな……ああ、居た居た」 満員電車の中で、知り合いを見つけると言う事は、こんなにも難しい事だったのか。 暫くキョロキョロと視線を動かして見つけた青山は、何時も通りに黙々と本を読んでいた。その顔は凛々しく、どうにも近寄りがたい雰囲気を放っている。 僕は、さり気なくその横に立ってみるが、青山が放つ空気のせいか何となく、声がかけにくかった。 そうだ、何時もは、青山が真っ先に僕に話しかけてくれていたのか。 意外な事に気づいてしまった僕は、少し情けなくなって下を向く。 青山、僕に気がつかないかな。 そんな馬鹿な望みを持ってみる。逃げたのは僕の方なのに。 そう言えば、今日はまだ本屋に行っていなかった。 こんな朝は、初めてだ。漫画本以上に、青山の事をずっと考えていたからろうか。 僕は勇気を出して、青山の肩を軽くつついてみる。 反応は、ゼロ。ちょっと悔しくなって、今度は軽く叩いてみる。しかしやはり、反応はなかった。 「青山君おはよう、僕だよ、川島だよ」 小声で話しかけてみても、青山は眉の一つも、ピクリとも動かさない。 ただ黙って、本へと視線を注ぐだけだ。 彼が、こんなにもはっきりと無視を決め込んだ事が、かつてあっただろうか。 僕はここにきて、ようやく自分のしてしまった事が、取り返しのつかない事だったとわかった。 青山の三歩後ろをついて歩くなんて、まるでストーカーみたいじゃないか。 僕はうじうじした気持ちを振り払う為に、ため息を一つして、彼を、青山を追い抜く様に走り出した。 「……青山、君」 追い抜いた瞬間、もしかしたら気がついてくれたんじゃないだろうか、と小さく思ったけれど、一度動きを早めた足は中々止まってはくれず、僕はそのまま学校へと走りきってしまうのだった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |