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アオソラ

 急に、目頭がかっと熱くなっていく気がして、僕は思わず顔中を手で覆った。
涙は出てこない。出てきたのは、たった一つの真実だった。

「斉藤さん、俺、そいつが凄く好きなんです。でも、付き合えない。」

どうしても付き合う訳には、いかないのだ。
世間からすれば、同性同士なんてまだまだ受け入れて貰えるものじゃなくて、僕はそれに、きっと耐える事が出来ないだろうから。
素直にそれを斉藤さんに言うと、彼は微笑みを崩す事なく、そっと僕の片手を取った。

「大空君、それは、相手の人に言うべき事です。そして耐えられないのなら、抱きしめて貰えばいいのです。案外、安心する筈ですよ」

それに、と斉藤さんは続ける。
僕ははい、と小さく返事をして頷く。

「私の、大事な友人である貴方が、そんな事に負けてしまうとは思えません。辛くなったら、漫画の世界に逃げてしまいなさい」

世界が、急に明るくなっていく様な感じがする。
その言葉は、優しい斉藤さんらしくない、僕にぴったりの言葉だった。
僕は、残りのコーヒーを一気に飲み込んで、意を決した様に立ち上がる。

「あ、ありがとう御座いました。僕、今日斉藤さんに会えて良かった」

僕がそう言うと、斉藤さんは、僕も会えて良かったです、と笑った。

 帰り際。僕がスリッパから靴に履きかえていると、斉藤さんは忘れ物の鞄を持って、見送りに出てきてくれた。
そして、僕が再び礼を言うと、あ、そうだ、と思い出したかの様にパッと口を開いた。

「そのお相手の方と、上手くいった時には、連れて来て下さいね」

僕は、もう迷いのない顔で、斉藤さんにしっかりと向き合う。

「そいつ、この学校の生徒なんですよ。しかも最近転入してきた」

ああ、これじゃ結構なヒントじゃないか。
僕は自嘲ぎみに言葉を頭の中で反芻する。斉藤さんは、もう既に気づいている様で、ふふ、と笑う。

「そろそろ帰らないと、暗くなりますよ」
「斉藤さん、本当に色々ありがとう……アンタの事、本当に大好きです」

憧れ百パーセントの、本当に素直な言葉だった。

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