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オレンジ信号機

 平井洋介は期限のさだめられたある契約の元、運命を自分の都合の良い風に左右する事が許されている。
それを初めて行使する事になったのは、小学校にあがってすぐの頃だった。

“きみもひっこしてきたの?”
“うん、だからひとりぼっちで……”
“じゃあぼくといっしょだね!”

本来であれば、半年もしないうちに私立の学校へと編入する予定であったが、手違いで短期間だけ入る事になった、何の変哲もない普通の小学校で。

“ようすけくんっていうんだ”
“よびすてでいい”
“ほんと?ぼくなつおっていうんだ、よろしく、よーすけ!”

ひどく安心した少年と顔を合わせていくうちに、芽生えてしまった感情は。
例え彼が二度と笑ってくれないとしても、絶対に自分の物であり続けたいという、独占欲のようなもので。

「坊ちゃんは、その方に焦がれているのでありますな」
家の執事は茶化すようにそうよく宣った。

(こがれ……こげてるって事か?)
いっそ自分が炎になってしまいたいとすら思っているのに。
平井が炎で、東江はただの人間で。
近づけば近づく程灰になっていくのだとしたら。
それすらもかき集めて愛せるくらいには、平井は東江に首ったけなのである。


 息せききった様子の小峰を前に、平井はハッと我に還る。
随分と長い間回想に入り込んでしまっていた。

東江が連れていかれて、多分大変な事になっている、と今し方明かされたばかりなのだ。


「夏夫が!?なんだって急がねぇと!」
自分でも白々しいと思うようなセリフを破棄捨てる。
小峰からは目を反らさず現地へと足を向かわせようとして、急ブレーキをかけた。

(危ない危ない、俺はまだ普通の親友なんだから、“今初めて聞いたフリ”をしなきゃな)

場所を知っている事が分かってしまっては、今の今まで東江を盗聴していた事も隠しきれないだろう。
左手の中に握りしめたイヤホンの感触を確かめて、平井は気づかれないようにため息をつく。
別段ばれても構わないが、万が一東江と引き離される事があると思うとたまったもんじゃない。

「じゃあ、弦、今すぐ案内してくれ!」

しかし、小峰は忙しいようで、簡素な地図を片手に解決を任されてしまった。
天は自分に味方してくれているらしい。
心なしか追い風も吹き始めたようだ。
正直な話、これは自分で何もしていないにも関わらず好都合だった。

仮に貞操が危険になるようであれば、元々自分が駆けつけて助けるつもりだったのだ。
たとえ小峰にこうして声をかけられなくとも、平井には東江が今どうしているかを知る術がいくらでもあるのだから。
だから、たまたま見かけたくらいでは当事者にはなれないんだ、と背中の小峰を心の中で笑って、平井は走り出した。

(まぁお前は、暴力くらいならいくらでも耐えられるんだろ?夏夫)
−お前はいつだって、一番の親友には何も話してくれないんだから。
だからこうして、俺から知りにいかなきゃならないんじゃないか?

途中で合流した内原と共に、開け放った教室のドアの向こうには、予想通りの光景が広まっていた。

Route2 信号トラブル中につき

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