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オレンジ信号機
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 合宿というものは、二年次以降進路を決めるにあたって人脈を広げておきなさいという名目の上で各学年ごとに旅へと向かう−いわゆる、修学旅行のようなものだった。
今回の一年次は投票の結果、米の美味しい事で有名な土地に決まった。
人数が多いため、バスでの移動は全てクラス単位。それでは本来の目的が達成されないのではという意見も多いが、改善された事は一度もない。

大きめのエナメルバッグを片手に、内原は一人深いため息に浸っていた。
元々クラスメイトと深く仲良くしようとしていなかったせいか、なかなかどうして行動がソロ、悪く言えばぼっちになりがちなのだ。

「あっ内原君」
「オイ、やめとけって、アイツ転入生ボコボコにしたらしいぞ」
「生徒会辞めさせられた腹いせ!?」

恐らくは先日の謹慎が避けられている大部分のようだが、それでも根も葉もない尾鰭が着けられている事は安易に想像出来る。

 (こういう時うるさく話しかけてくるのが、お前じゃないのかよ……)
自分勝手にそんな事を思いながら東江を目で探せば、いつの間に元に戻ったのか同室者である小峰とバスの前で何やら話し込んでいる。

 不意に、小峰と東江の会話が途切れたのかきょろきょろと周りを見渡しだした。
すると、内原と目があった小峰は一瞬だけ目元を歪ませるではないか。

その表情はまるで勝ち誇っているようなもので。
“うかうかしていると、ボクが貰ってしまうよ”
と言っている気がした。
少し前までの内原であれば、そんなものどうぞどうぞと鼻で笑ってしまえる程度のものだったが、今はどうだろうか。

(お前は……東江は俺の物だろうが)
自分に素直にならなくてもわかる。
これは紛れもなく嫉妬心だった。
夏休みに入る直前、平井に殴られた時、色々なしがらみまで剥がれ落ちてしまったのだ。

だって彼の方がそう告白してくれたのではないか。
男同士だとか、自分ではダメだとか。
そんな話はもう関係ない。
フって欲しいと言うのなら、その期待を破るのが自分に出来る唯一の役目だ。
内原は、鞄の中に忍ばせたペットボトルをちら見して、息を飲んだ。
視界の外では、教師とバスガイドにせっつかれて二人がバラバラに離れる様子が繰り広げられていた。

 東江がバスで座る席は把握した。
やはりと言うか、想像通りに平井がその横をキープしていたのだから、すぐに分かったのだが。

 我ながらストーカーみたいだと笑いながら内原は作戦に出る。
湖散策でバスから人が出払った瞬間、忘れ物を取りに行くそぶりで東江のクラスのバスに乗り込み、目的の席に置いてくる。

(真っ黒いから、このメッセージは普通には見えない……よな?)

黒いサインペンで、記された自分の部屋番号。
コーラが嫌いだと断言していた彼はきっと飲まない。
だからこれは賭けだった。
怪しんで、捨ててしまったのであればその時点で敗北。

しかし、もし気づいてくれるのなら。
今度こそ、自分から見つけてくれるのであれば。
心の底から愛してやろうと、内原は決心したのだ。

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あきゅろす。
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