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オレンジ信号機
13
 言いたい事を言うだけ言ってさっといなくなる。静寂をコントロールしているかのようにいなくなる彼の方が、もしかしなくともよっぽど潔い性格とでも言うべきなのかも知れない。
内原のメンタル面に大打撃を残したまま、季節は流れすっかり蝉の声しかしない時をつれてきた。
夏休みに入れば、大体の生徒は実家へと羽を延ばしに行くだろう。
東江は−事情は詳しく聞くつもりもないが家にはあまり居たくないのであろうと内原は感じていた。

 そうして、いよいよ明日から旅立つと決まった時の事だ。
自宅への連絡も済ませ、荷物の支度も軽く済ませた内原は今日も今日とて部屋を抜けだし丑三つ時の中庭を闊歩していた。
オレンジ色の明かりがロマンティックに揺らめくテラス。
眠い目をこすってよく見れば、そこには誰かの人影が一つある。

「よう、こんな時間に何しているんだ」
「……夏夫じゃなくてごめんな」
「いやいや、久しぶりに会ったと思えばそれかよ」

照らされた金髪をまばゆい程になびかせ平井は立ち上がる。
何故かその表情はこわばり、とても数年の友人に見せるものではなかった。

「オイオイ、すっかり中学ん時のカオになってないか。どうしたよ」
「お前がオレの欲しいもの全部持っていこうとしてるからな、ジェラシーって奴かな」
「なんじゃそりゃ、少なくとも東江の一番の親友は揺らがないんだからいいんじゃね−」

ため息まじりに冗談を言おうとして、椅子に自分が座らされた事に気がついた。
平井が、襟首を掴んで睨みつけているのだ。

「……お前ならアイツを幸せに出来んだぞ、誇れよ」
1ミリも瞳を動かさずに、思っている事を正直に話した。
それだけだったのに、平井は勢いまかせに平手打ちを食らわせてくる。

「オレはもう親友でいるって覚悟きめてんだよ!!何も知らねぇ癖に分かったような口きいてんなよ!!」

今度は別の方向から、無遠慮に拳を頬へとめり込ませてくる。
何があったのかはこちらからは察する事しか出来ない。
それでも、平井の逆鱗に触れてしまった事だけは理解が出来る。
そしてこういう状態になった時の彼には、気が済むまでさせるべきというのも知っていた。

「どうした腰抜け、やり返してみろよ」

知ってはいたが。挑発されてしまえば頭に血が上ってしまうもので。
お望み通り仕返しを食らわせてやろうと手首に力を入れたその瞬間の事だった。

『−お前たち!!こんな時間に何をやっているんだ!!』

急激に強い光を差し込まれ、お互いに凝固する。
オフの時間にも関わらずスーツをまとった教師が一人、こちらに駆け寄ってくるのが見える。

「は、運の強いヤツ」
このままでいれば、きっと平井だけが罪に問われてしまう。
この事態の一員は自分にあるのならば、と言う気持ちと、あと一方的にやられて気分が悪かった2つを込めて、反射的に内原は平井の腹を蹴飛ばした。

『内原!平井!お前たちこんな時間に−!?』
そうして丁度のタイミングで教師が駆けつける。
これが、夏休み一杯寮内謹慎を言い渡された男子高校生の実体である。

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あきゅろす。
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