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オレンジ信号機
12
 ……と潔く決意をして東江の前から姿をくらませる事などたやすい事だった。
元々クラスが違うのだから、今までの遭遇率がおかしかったのかも知れない。
わざと自分から会いに行っている事もあったが、それは昔自分が惚れた彼の表情が見たかったからかも知れない。

内原は、学校内でも見かけられる回数を減らす事で相対的に東江を遠ざけられる確信があった。
だから、授業は移動以外であれば極力教室からは出ないうえに、昼食は屋上で一人風にたそがれていた。
鍵はない。ドアが数年前から壊れている事は、生徒会で一人仕事をしていた時に偶然知ってしまった自分くらいだろう。

 しかし、日課ともなればどうだろうか。
夜の散歩に高じていると、暗がりの中ぼうっと妖怪のように三つ連なった自動販売機の前に、彼は一人立っていたのだ。

「またアイスココア飲んでんのかよ」
「違うよ、内原が来る気がして待ってた」

東江は、小さいペットボトルに入れられたコーラを手渡してくる。
水滴のほとんどついていないそれは、触れた時のぬるさから時間の経過を感じさせる。

「うえ、一体何時間コーラ飲んでたんだ」
「僕はコーラ嫌いだから、それは内原の」

買って待っていた事は拒否せず尋ねれば、話せるまでだよ、と小さく返事が来る。
ぬるいけど。それでも好意を無碍にするのもよろしくない。
そう言い訳を脳内で積み重ねて、東江の前に立つ。
すると彼は、ようやく口を開いた。

「内原はさ、何でこの学校に来たんだっけ」
「なっちゃんがいなくなって寂しかったから。……なんて、言って欲しいのか?」

意地悪く悪意を込めて、東江の目をのぞき込むように返すと、やけに素直に相手は頷く。

「ちゃんとうっちゃんも、僕の事好きでいてくれたんだって思えるから」
「今は違うけどな……なぁ、俺も一つ聞いていい?」

どうぞ、と東江は手の平を差し出す。
自分の言いたかった事に水を差されてか、その目は少し細まったように見える。

「その、首のヤツってさ、昔俺と一緒にいた時からあったのか?」

井上から一方的な感情をぶつけられたあの日、たまたま見てしまった彼の秘密。
もし、幼なじみであった時に知っていれば、まだ何か違ったかも知れないのだ。

「全然。だから君は気にしなくていいんだよ」
「じゃあ別々になってからなんだな。それはそれで……一番近くにいて支えてやりたかったって、苦しくなるけどな」
「その気持ちだけで行幸だよ。ねぇ、続き話していいかな」

本当に慈しむように微笑むものだから、内原は二の句も紡げなくなってしまう。
それを良い事に東江は、今度こそ意を決した様子で述べた。

「夏休み明け、九月の合宿でさ、きっぱりフって欲しいんだ」

今はまだ心の準備がないから。
内原の感情を一切無視した、独裁的な告白だった。
先ほどまで傷をなめあうかのような雰囲気だった筈なのに、一瞬で戦場のように張りつめて空気になっていく。

「僕の初恋は君で、それはあの時秘密基地を壊して終わらせた。だからこれは別の希う話なんだ……僕は内原哲也の事が、好き」

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あきゅろす。
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