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オレンジ信号機
11
 そのまま東江を連れて校庭へと戻った内原に待っていたのは、借り物競走の出場だった。

「ちょっと、リュウジ達は?」
黄緑に紫のラインが入ったジャージを着こなして、小峰は怒ったまま東江と内原を一瞥する。

「ああ、あいつらは対消滅した」
「またそんな適当なウソを……」

若干ひいた声色の東江はこの際さておき、内原はてきぱきと準備運動をする。
列に戻り、準備万端だとサインを送れば、スタートの合図が打ち鳴らされた。

 手にした紙に書かれていたものは、『好きな人』だった。この学園らしい、俗物に興味津々なものだ。
内原は立ち止まり、今の自分の状況を鑑みた。

俺が今、一番したい事はなんだろう。
先ほどの屋上前で待っていてくれた事への事情説明か、それとも今までの話か、もっと言えば、崖に自分が居たら、彼は助けてくれるだろうか……きっと、彼と、東江と話がしたいと思った。

では何故話がしたいのか、そしてそんな疑問を、この紙一枚で想像させられるのか。

(……それは、アイツが初恋の奴だから)
それは間違いない。
それなら、どうして今も東江の事が頭から離れない?

「東江の事が、知りたい」
これ以上踏み込めば、きっと否定してきた理由も情けない程、彼への感情を自覚させられる。

それが分かっていたからこそ、内原は紙を握りつぶして、スタートラインまで歩いて戻っていく。
実況は、『投げ出したかー!?』と叫んでいる。

「俺にはいませんのでね」
そうして、野次を軽快に飛ばしてくる生徒の中にいる小峰と東江の姿を見て、ほっとため息を一つおろす。

(だってまだ俺はあれを見ても嫉妬なんかしないのだ)
だからまだ戻れる。彼は自分以外の誰かに幸せにして貰える。
そんな事を考えている時点で、既に手遅れある事には、内原自身も気がついていない。

 それから数日の事。たまたま渡り廊下で遭遇した東江と一言二言会話していると、不意に横切った見慣れないショートカット姿が目に入った。

「センパイ、髪、っていうか指……!?」
東江も、ひどく吃驚してはいるが、それ以上に内原も驚愕だった。

あの井上が、平井に似合っていると言われてしていたお下げの髪型を取りやめていたからだ。

「−その節は、大変ご迷惑をお掛けいたしまして……」
うやうやしく頭を下げたその手、左手の薬指にはきらりと華奢な指輪が輝いていた。
アクセサリーなど、これまた潔癖性の彼らしくない趣だ。

「あー、オメデトウゴザイマス?」
内原の言葉に、井上は今度こそ居心地悪そうに目をそらして謝罪をする。
するとちょろいことで有名な東江も首と手ををぶんぶん振って否定した。

「お、お幸せに、です」
「……そちらも」

何かを勘違いされている気もしないでもないが、内原ははいはいと適当に相づちをうつ。

(そうか、仁神はやったのか。なら俺も、けじめをつけないとな)

東江にとって一番の脅威であった筈の彼らはもう何ら心配ない。
それならもう、自分が守らなければと肝を日やす必要だってないのだ。
もう満足、これで十分。東江から離れる事が出来ると思った。

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あきゅろす。
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