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オレンジ信号機
10
 「僕はどうすれば?」
「東江は−そうだな、屋上前の階段にでも居てくれないか」
「な、何そのよくあるシチュエーション」

そんな場所告白にしか使わない。
東江がどんな想像をしているのか内原にはまるで筒抜けのようで、こちらが恥ずかしくなってしまう。

「まぁ兎に角、俺に全部任せろって事だ」
何かちょっと、格好良く見えるんじゃないか、これ。
どうでもいい悦に浸りながら、内原は走り出す。
周りの目はもう気にしない。奇しくも目線の隅では、仁神が小気味よく足を踏み出した所だった。

「ッヨリ先輩、ちょっと俺と来て下さい!」
間に合え、間に合え。
心臓が直接耳になったかと思うくらい早く波打つ。
日陰のブースでほかの元生徒会役員と談笑していたその人の腕をとって、ゴールの前まで引き寄せる。

『仁神君断然トップでゴールか!?おおっと!ここで乱入者がー』

放送委員のキンキン声の実況がうるさい。
ゴールテープを切ってこちらまで一直線に走りきってくる仁神と目があえば、内原は口走っていた。

「崖に俺と井上依がいたらどうする!?」
「え、ちょっとなんですかその質問!?」

ぎょっと目を見開いて、井上が二、三歩後ずさる。
しかし、仁神は足を止める事なく、上がりきった息にも気にせず絶叫した。

「〜〜それは勿論!!内原さんっす!!!」
「……何を今更、こんな所で」

井上は、今にも逃げ出しそうなくらい落ち込んだ様子で、視線から逃げるべく首を振る。
いつの間にか、目の前にまで仁神がたどり着いていた。
体育祭の次の競技を進めんとせん端で、皆がそれに注目していた。

「でも、自分は、もし崖にアナタと内原さんがいたら……はぁ」
呼吸を落ち着かせるべく、肩で大きく息を吸い込んで、仁神は再び口を開く。

「内原さんを助けた後、先輩と一緒に崖から落ちるっす」
「一緒に死んでしまいますよ」
「大丈夫っす、俺健康なんでイノウェイ先輩抱えて上まで行くっす」

仁神はようやく、自分の気持ちに決着をつける事が出来たらしい。
これは彼なりの告白なのだ。相手に伝わっているかはさておき。

(……相手の顔を見る限り、満更でもないのは分かるがな)
困惑と、それから少しの興奮をにおわせた紅潮した頬は、井上もあと少しだけだと表している。

『……今度は二人が浚われる!?一体今のは何だったんだ〜!?』
笑いに包まれる放送ブースの実況と、止めようと声を張り上げる教師を背後に、内原は井上と仁神の腕を掴んで再び走り出す。
そうして辿りついた先は、東江の元だった。

 「何なんですかさっきから−」
「単刀直入に聞く。リュウジと洋介と東江が崖から落ちそうになってたら、誰を突き落とす?」
「エッ誰を助けるじゃないの!?」

一人状況の読めていない東江をさておき、井上は質問の意図を解くように考え出す。
誰かに一番に思われたい、だから誰かに恨まれるようにしたい。
そんな歪んだ彼になら、“最後に残った人物”が自分にとっての一番だと気がつける筈だ。

「私はきっと……洋介に一生嫌われる為に彼を落とすでしょうね。つまり−」

これ以上、自分達は不要だと内原は判断した。

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あきゅろす。
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