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オレンジ信号機
2−2
 久しく顔を合わせていなかった親友は、すっかり変わり果てた姿になっていました。
そんな作文を脳内で作り出してしまえる程、東江の中での衝撃は凄まじい。

「地毛とはいえ金髪目立つしさー、かと言って染めるのも親に悪いじゃん?」
そう言って笑ってはいるが、本心は見えない。
だってあんなにも進学した高校を気に入っていたのに。

「まぁ、色々思うところあってな」
そう言われてしまえば、もう苦笑いを返すより他ないのだが。

「でも本当に転校してくるなんて思ってもみなかったよ」
「あんなにキてキてって言ってたのに?」
「そ、そんな変な言い方はしてない!」

何はともあれ、見知った顔がいるだけで安心する。
元来人見知りの性格である東江は、同室者とつっかかってくる同級生以外に、知り合いなどいないのだ。

 寮での平井の部屋は、大きな中庭を挟んで向かいの三一八号室だった。

「変な時期に転校しちゃったせいか一人部屋なんだよな」
「じゃあいつでも遊びに行けるんだ、僕的にはラッキーかな」

おう、いつでも来い、と黒い目を細めて平井は笑う。
本来なら、綺麗な翡翠色の瞳の筈で、それを知っている人間は、この学園内では自分だけというのが、少しだけ嬉しい東江なのだった。

 「夏夫の同室は?どんな奴なんだよ」

当然、くるであろう話の流れだった。
しかし、今更になって言うべき言葉を用意していなかった東江は、頭の中で緊張と緩和を繰り返す。

「う、こ、小峰っていう、優しそうな人だよ」
「うっちゃんじゃなくて?」

刹那。二人しかいないその場が一瞬で氷りついたように静かになった。

「……なんで、知ってるの」
「は?だって夏夫がうっちゃんがーって言ってたんだぞ」
「ま、まじか……」

どうやら知らない間に、口を滑らせていたらしい。
すべての事が杞憂であったと知らされた東江は、どっと汗が背中を流れていく感覚がした。

「何だよ、俺に隠し事しようとしてたのか〜?」
「でもやっぱりヨースケにはバレバレなんだよね」
「おうよ!八年の絆があるからな」
「何だろう、僕には絆のあとにカッコ笑いが見えるよ……」

見た目が異なっていても、平井は東江の慣れ親しんだ平井で。
たった数ヶ月会っていなくても、ちゃんと前と同じように話せる事が、何より嬉しかった。

 その夜の事。寮の食堂に平井を招いた東江は、ささやかながら歓迎パーティーを開催した。

「明日から、授業にも参加するんでしょ?クラスはもう知ってるの?」
「俺のクラスはいつでも夏夫と一緒」
「そうだったね」

八年間連続して同じだったのだ。
まさかここでその縁が途絶えるとも考えにくい。

「ここの寮ってすげーのな。三ツ星シェフが作ってるのなんてもはや食堂なんて言ったらダメだろ」
「でもそう看板が出てるし……」
「トラットリアだな」
「言語を変えただけじゃん!」

小鳥がさえずる中庭には、さすがに未だに夢かと目を擦る事もあるが。
自分の好きな場所を平井も気に入っていてくれるようで、東江は心底ほっと息をつきたくなった。

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