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オレンジ信号機

 そうして、東江夏夫と疎遠になる事早一ヶ月。
夏前の一大イベントとして、学園では体育祭の準備が進められていた。
普段は大人しくなりを潜めている生徒ですら、目立とうと精を出すのだ。
体を動かす事が嫌いではない内原も、筋力をつけておこうかと付け焼き刃にランニングを始めてみたり、プロテインを飲んでみたりしている。

「内原さんは形から入るタイプっすよね。ボードゲームとかも人気のあるものよりは古い物から押さえたい方っしょ?」
「書道する時はたすき掛けするぞ、俺は」
「何それ、超見たい……!!」

実行委員長は部活動でなかなかの高評価である仁神だ。
こと運動に関しては自分よりプロフェッショナルよりである彼には、内原も学ばされる事が多い。

「そういや俺紅組なんだけど、お前は?」
この学園では、膨大な生徒数を誇る為クラス内でも大きくカラー分けがされる。

「自分ピンク組っす。嫌だな〜紺色にピンクのラインのジャージとか」
そして、この大会の為だけに財源は使われ限定ジャージが支給されるのだ。

「何でだよ。第二ボタンみたいに卒業式で下さいって言われるかもだぞ?」
「イノウェイ先輩のジャージなら欲しいっすけど……あ、内原さんのも貰ってあげてもいいっすよ!」
「何でだよ」

はははと軽く笑いながら、ふと運動のあまり得意じゃない彼は今頃どうしているだろうかと考えた。
ろくに同室者とも仲直り出来ていない様子だったが。
自称親友であるあの金髪がそばにいる限りは、安心していいのだろうか。

「ちょと内原さん、自分というものがありながら他にうつつを抜かしてるんすか?」

しかしそれも、目の前の仁神によってシャットダウンさせられる。
ただでさえ思考を停止するのは面白くない事態というのに、それが東江の事となると尚更だ。
だから内原は、少し意地悪をしてやる事にした。

 「お前さ、依の一番になりたいんだろ」
「……そうっすけど、今関係なくないすか」
「まぁ聞けって。もしもさ、俺と依が崖か落ちそうになってたらどうするよ」
右手と左手を天秤のように上げて、内原は仁神にそう尋ねる。

「それって、仕事と私どっちが大事なのって聞くオンナみたいっすね」
「はぐらかすな」
「……そりゃ、内原さんを助けるっす」
「本当にそうか?」

内原の追撃に、今度こそ仁神は沈黙する。
遠くでセミとカエルのデュエットが響いている気がした。

「じゃあヒントをやるよ。潔癖性で人となんて同室にとてもじゃなれないようなアイツが、ニックネームで呼び合う程の存在がいる、って事だ」
「え?……え??」

糸目の目を限界にまで見開いて困惑する友人をよそに、内原は満足げにその場を後にする。
すべてを教えてあげられる程自分は親切でもない。
しかし、この体育祭というイベントを音便に過ごす−東江に何事もなく終わらせられるには、ここの問題は避けては通れない事も確かだった。

(もしも崖に俺がいて、落ちそうになっていたら……)
そこに、同室者のアイツと、親友のアイツもぶら下がっていたとしたら。

東江は、内原を助けてくれるだろうか。

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あきゅろす。
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