[携帯モード] [URL送信]

オレンジ信号機

 「僕……すごく自分勝手な事を」
「あー、気にすんなよ」

かいつまんで、しかしはっきりと真実を伝えると、東江はすっかり沈みこんだ表情になってしまった。
確かに無理はない。誰だって他人の考えている事を知らされる程怖い事はないのだ。

「だから−髪の毛染めたりしてるんだ?」
「見た目で気づかれないなら、性格で気がつくんじゃないかって思ってな」
「ご、ごめんなさい」

これは半分以上嘘だが、せっかく自分を、過去を想いやってくれると言うのであれば少しは揺さぶりをかけてもいいと判断した。

 「まぁ、俺のささやかな抵抗物語はこんくらいにしてさ、お前も諦めろってこった」
「あきらめるって」
「俺の事探してここに来たんだろ」

これはいつぞや、平井が言っていた事なのだから間違いはない。
東江は随分と長い間自分に煩っていてくれたとか。
そう言うと、東江は今度こそ表情をなくして、ふうとひとつため息をついた。

「ずっと好きだったんだ」
「うん、でもそれももうおしまいな」
「おしまいでも、それでも僕の心がまだ収まらないんだ……気づかなかったのは、本当にどうかしていた」

だってこんなにも変わってなんかいないのに。
最後は小さく呟く彼に、無性に沸き上がってきた感情は一体何だったのだろうか。
自分でも気がつかないうちに、内原は東江の手を掴んでいた。

「そこまで言うなら、ちょっと付き合え」
「えっちょ、どこに……!?」

勘違いをされないように、強めに握りしめて歩き出す。
自分だけが知っている抜け道で学校から外の世界へと踏み入れば、東江も覚悟を決めた様子で黙った。

 ひたすら突き進む事、約1.5キロメートル。
比較的暑い方である本日は、夜でもじっとりと汗をかく。
持ったままの手は、どちらのものか分からなくなる程熱くなっていた。

「ここって……秘密基地?」
肯定の意味を含めて頷けば、東江はようやく目を見開いて確認する。
かつて二人で作っていたものは、テントで急ごしらえに作った拙いものだった。
しかし、今彼の目の前にあるものは、すっかり様変わりしたさながらログハウスのようなものだ。

「これを壊してさ、最初からやり直そうぜ、俺たち」
ここは、内原哲也がしばしば学校を抜け出して作っていた思いのはけ口だ。
“なっちゃん”を心から追い出す為の、精神安定剤。

説明をしてから東江は、手にした斧にとまどっている様子だった。
しかし、躊躇いなくケンカキックでドアをぶち壊した内原を見てから、目を瞑って振り上げた。

 あらかたゴミの山へと戻った資材を見て、二人で額の汗を拭う。
さて戻ろうかとそこへ背を向けるや否や、東江が口を開いた。

「……思い出した」
「どうした、東江?」
「“なっちゃん、おれとけっこんしよ”」
「……あー、それな」
「あの時の言葉、本当に嬉しかったんだ、僕」

ありがとう。そう言って頭を下げたその表情は、どこかすっきりしたもので。
ああ自分もそんな顔が出来ているのならいいのだが、と内原は密かに思った。

(俺も、ずっと好きだったからな、なっちゃん)

[*前へ][次へ#]

5/15ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!