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オレンジ信号機

 夕日が沈んで、赤茶色の煉瓦もすっかり夜の色に染まる。
遠くで教員が帰宅を促す声を耳にして、ようやく内原哲也は大きく伸びをした。
生徒会室のデスクの上には、先ほどまで誰にも目を通されずに放置されていた書類と、無地のA4ノートが広げられている。

「クラスが違うから、あまり参考にはならないと思うっすけど」
「そりゃ確かに。でもこれはけじめみたいなもんだからな」

放っておけ、と目で諭せば自分を親衛隊と慕ってくる元同室者−仁神龍治は苦笑いで頷く。
彼に手伝いを任せる事を条件に、内原だけは生徒会の任務を続行していた。
井上を始めとする他の役員は、このけじめのせいで謹慎中となっているのだが。

 「それにしたって内原さんはストイックっすよね、俺も見習いたいもんっす」
「お前な……ストイックって言いたいだけだろ」
「あは。ばれてたっすか」

(だって禁欲とか、俺に一番遠い言葉だぞ)
それを言った所で、この盲目的な少年には伝わらない事が目に見えているので内原は沈黙する。

 季節も移り変わり日も長くなったせいかうっかりしてしまいがちだがふと目をやれば時計の短針はもう7と8の中間だ。
鞄の中にノートと書類を詰め込むと、内原は仁神を引き連れて寮へと歩み出す。

七〇八号室まで彼を見送ると、少し意地悪がしてみたくもなって、背を向けながらに一声かける。
「部活休ませてしまって面目ない、リュウジ」
「……!いえ、内原さん−うっちゃんの、ためだから」

二週間の遅れは、部活を愛する仁神には辛い事だろう。
それでもこんな自分を手伝ってくれるのだ。
普段でこそただの親衛隊を装っていがちだが、こうして幼なじみらしい事を言えば彼が喜ぶ事は知っていた。

 自分の部屋へと戻るついでに、大浴場の方へと足を運ぶ。
大きく開けた空には星がちらついて、いかに空気が澄んでいるかを表しているようだ。
内原は一日の間で、夜と呼ばれる時間が一番好きだ。
昼間に友人達と遊ぶボードゲームも悪くはないが、やはり一人の空間が落ち着く。
自動販売機が連れ並ぶ前まで来ると、ベンチに腰を降ろした。

「これのどこが禁欲なんだか」
一人呟いて、自嘲気味に鞄からノートを取り出す。
東江が授業に遅れる事のないように、と始めたまとめだったが、もうすぐそれもおしまいだ。

「来週で、戻ってくる」
声に出して実感する、彼がようやく怪我を乗り越える事を。
それにしても、こうして自分はどこまでも彼の印象に残る事をしようとしているというのに、どこがストイックだと言うのか。

−顔の合わせるタイミングが多い同室者にも、腐れ縁の幼なじみにだってきっと俺は勝てないからな。

だからこれくらいは許して貰えるだろう。
勝手に幸せになる彼の、その心の一部分に残りたいと思うくらい。
何故なら東江は、内原に会う為にこの学園に来る事を選んだのだから。

『それならさ、なっちゃん、おれと−』
あの時自分が彼に言った事を、今更叶えてやる事は出来ない。

Route3 夜間押しボタン式

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あきゅろす。
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