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オレンジ信号機

 「夏夫、どうしたんだよお前らしくない」
「ヨースケの言う僕らしさって何?」

一歩進んで、一歩言葉を交わす。
その様子をやけに緊張した面もちで見守る小峰と内原が鬱陶しい。

「いつでも一人で生きていけますみたいな顔してるじゃん、お前」
「それはヨースケがそう見てるだけなんじゃないかな」

僕結構、側に人がいないと生きていけないよ。
呟くように吐き捨てられた声が風にのって消える。
もう夏が来る頃だと言うのに、虫の声一つない緊迫感が心地良い。

「夏夫はそんな事言わない」
「言うよ。僕だって何でもヨースケの思い通りにならない。ヨースケだって僕の思い通りにならないのと同じだよ」
「俺はっ、ちゃんとお前の望んだままに−」
「違うでしょ。ヨースケは僕がそう思ってるに違いないって事を過信して勝手に動いてる。いつも。それに助けられる事だってあるけどさ」
「じゃあそれでいいじゃないか。お前が助けてって言ってくれないからこっちが動いてるんで」
「助けてなんて言わない。ヨースケはそんな僕が本当に“ナツオ”と認められる?」

どんな質問だ、と思った。
いつまで経っても言い合いのオウム返しで、らちがあかない事この上ない。
だがしかし、“本当になんでも思い通りになる”その状況を想像して、はっきりイエスと答えられない自分がいた。

「……うん、この間もそうだったけど、これじゃ堂々巡りだ。だから僕も考えたんだよ」
「考えた?何を?」
「ヨースケの言う通り、思うがまま、僕は好きに動くよ。お試し期間って言うのかな」

背後にいる内原と小峰も、これは聞かされていなかった様子で呆然と口を開ける。

「それで、僕の事をちゃんと見て貰う」

気がつけば、東江は目の前にまで歩いてきていた。
その表情に怯えはなく、いつになく澄んだ眼差しをしている。

「僕を−ヨースケの中の“東江夏夫”を壊せるのは僕くらいだからね」

覚悟しておいて。
そう強気に笑う東江に、平井は何か変なスイッチを押してしまったのではないかと冷や汗をかいた。

「まさかメール貰った時はこんな事になってるとは思わなかったけどな……何か俺達そんな必要なかったんじゃねーか」
内原も、飄々とした態度で東江の横に並ぶ。

「ボクも……まぁ心配とかは全然ないけどなっちゃんが自分で選んだならそれでいいと思うよ」
小峰は、その後ろからやんわり声をかける。

(いやいやいや、お前等どう見ても危険だろ、止めろよ)
焦るは己ばかりで、平井一人がその温度差についていけていない。

「ってここまで一人で喋っちゃってごめん……だけどヨースケにも、悪い話じゃないと思うんだけど?」

それは確かに当たっている。
はがゆい思いも、無駄な嫉妬も、もうしなくていいと保証されたような物なのだから。

「よ、よろしくお願いいたします……?」
そう言って、東江が差し出す手を取る。
それはまるで、幼いあの日を再現しているかのようだった。

しかしそれでも。
どこか自分が負けたような気がするのは、気のせいだろうかと平井は頭を抱えたくなった。

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あきゅろす。
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